「異次元の少子化対策は少子化を加速させる」 橘玲が明かす少子化の“真の原因”

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現役世代への“虐待”

 その上で子どもを産むという決断をしたとしても、現代社会では子どもが「失敗できないプロジェクト」になってしまっています。

 少子化が進んでも、お受験は逆に過熱しています。幼稚園や小学校から私立に通わせるのは高収入の共働きでないと無理で、さらに、実家が近所でないと子どもの病気など不測の事態に対応できない。結婚・出産の「ハードル」が高すぎるんです。

 だとしたら大事なのは、人生のリスクを軽減する政策です。ひとり親世帯の相対的貧困率が先進国でもっとも高い日本で、女性にとっての最大のリスクは「母子家庭」になることでしょう。結婚後にパートナーとうまくいくかは運みたいなものですが、子どもを抱えて離婚したとたんに、社会の最底辺に突き落とされてしまう。そこで、生活が苦しいときは住居や収入など最低限の保障をする「シングルマザー版ベーシックインカム」はどうでしょう。

 これはたんなる空論ではなく、イギリスでは、母子家庭への支援には投入した税を上回る効果があったという実証研究があります。日本の問題は、政策効果の検証が一切行われていないこと。選挙対策として口当たりのいい政策ばかりが実行され、本当に効果があったかは検証されない。こうして国家予算だけ膨らみ、増税できないから社会保障費を引き上げ、現役世代を“虐待”している。

 このままでは人口は減るばかりで、いまの現役世代が高齢者になった時、誰がその面倒を見るのか。若者たちが「高齢者に押しつぶされる」という不安を抱えるのは当然で、これが少子化の真の原因でしょう。

橘 玲(たちばなあきら)
作家。1959年生まれ。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017年新書大賞を受賞。近刊に「週刊新潮」連載をまとめた『バカと無知 人間、この不都合な生きもの』や『シンプルで合理的な人生設計』など。

週刊新潮 2023年7月13日号掲載

特別読物「三賢人が斬る『マイナカード』より重大な“日本の難題” どうする『少子化問題』」より

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