「少子化は解決できる問題ではない」「一度国を“ご破算”にすればいい」 養老孟司が語る少子化問題

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“ご破算”の状態から始めるのが得意な国

 私がいま関心を持っている大地震がそのヒントになります。

 元京大総長で地震学者の尾池和夫さんは2038年ごろに南海トラフ巨大地震が起こると明言しています。歴史を振り返ると、幾度もの天災が日本のシステムを変更してきました。鴨長明が「方丈記」に記した文治地震(1185年)はマグニチュード7.4とされますが、源平争乱の背景には、天災による日本の危機があり、平安時代を終わらせる一つの要素となりました。そして時代は進み、江戸時代の終わりを告げたのが1853年の黒船来航と翌年からの安政の大地震。明治維新があって、富国強兵を進める日本を破壊したのが、関東大震災(1923年)でした。1927年には陸軍大将だった田中義一内閣が成立し、その後は次第に軍人内閣の色が濃くなり、太平洋戦争に突入していきます。戦後も焼野原の状態から日本は新たな国の形を構築してきました。

 どうやら、この国は“ご破算”の状態から始めていくことが得意なようです。

 現代社会に残されている課題はいまのシステムではどうしようもないことばかりです。日本の文化とシステムは行き着くところまで来てしまった。必ず来るのですから、いっそ地震のせいにして、一度ご破算にして、組み立て直すしかない。

 その時に初めて、子どもが投資的対象なのではなく、ジャガイモのように自然に育っていくものだ、という感覚が立ち上がってくるのではないでしょうか。

 少子化と子どもの教育は政治の問題ではなく「自然」の問題なのです。

養老孟司(ようろうたけし)
東京大学名誉教授、解剖学者。1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉市生まれ。1989(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。著書に『バカの壁』『手入れという思想『ヒトの壁』『遺言。』など多数。

週刊新潮 2023年7月13日号掲載

特別読物「三賢人が斬る『マイナカード』より重大な“日本の難題” どうする『少子化問題』」より

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