「少子化は解決できる問題ではない」「一度国を“ご破算”にすればいい」 養老孟司が語る少子化問題

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シミュレーション不可能

 子どもが減っているという事実について、その原因を言語化できるとの認識がそもそも間違っています。昆虫は1990年から2022年にかけて、全世界で8割から9割がいなくなったとされています。しかし、その原因についてはっきりしたことはわかっていません。子どもが減ってしまった理由がよくわからないのと同じです。

 現代社会では人間がシミュレーションすることができ、因果関係がはっきりしている課題はすべて解決方法を見いだしたと言っていい。例えば、貧困の問題です。私が子どもの頃に比べれば、日本は経済的に豊かになりました。逆にいまはシミュレーション不可能な課題として少子化問題が残されているといえます。それを「解決できる」と考えていることが間違いですし、このくらいの金をかければこのくらい子どもが増えるだろう、と必死にシミュレーションして、巨額の予算をつぎ込む政府や政治家がむしろかわいそうに思えてきます。

 人口が減れば、解決できる問題もあります。環境問題がその一例でしょう。環境問題の本質は人が多すぎること。にもかかわらず、なぜ国は人が減ることを問題視しているのか。それは政府や官僚が子どもの減少をお金の問題として捉えているからです。若い人が減ると、働ける人が少なくなり、GDPが減少してしまう、としている。

 その意味で、私は少子化問題については放っておけばいいと思うんです。ジャガイモと同じで転がしておけば、子どもは育ちます。人口が増えたって減ったっていいじゃないですか。なぜ、政府はそういう流れに身を任せられないのでしょう。畑を耕そうが、耕すまいが、ジャガイモは育つ。

 しかし「放っておいたら育つ」存在を社会は許容できないんです。

余分な肥料は…

 人間というのは自分の「成果」を誇らずにはいられない生き物です。政治家は地元の選挙区に橋を造れば、その「業績」を有権者に誇るでしょう。ただ、別にその橋は政治家が造ったわけではない。誰かが材料を運んで建造してくれたわけです。

 医者もそうです。彼らは病院に患者が来ると、何か治療をしないといけないと思い込んでいます。仮に医者が患者に対し「放っておいたら治りますよ」と帰してしまったら、病院に一銭も入りませんし、患者も怒ってしまうかもしれません。やはり、医者は“余計な”治療をしたがるものです。

 稲を育てることと子どもを育てることは基本的には同じ原理です。栄養が不足しているのであれば、肥料を与えた方がいいに決まっている。しかし、栄養が十分なところで余分に肥料を与えれば枯れてしまうだけですよね。

 教育もそうです。好きにさせると子どもはロクな大人にならないと信じられている。日本で教育というと、毎日学校に行って、おとなしく座らせて勉強させる、ということになっている。動き回るとADHD(注意欠如・多動症)だと言われ、アメリカだと薬物療法を用いてまでじっとさせようとする。でも、子どもってじっとしていられないのが当たり前ではないですか。

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