「結婚式に新婦がリモート参加」は本当に美談か? 終わらない「娯楽よりも感染対策を重視する」空気(中川淳一郎)

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 こりゃ、日本でコロナ終わらんわ、というツイッターの投稿を見ました。投稿主は新婦の父、職業は医者。新婦が式の2日前にコロナ陽性が発覚し、欠席。父が投稿した写真は、新婦が会場のスクリーンからリモート参加をし、ウェディングケーキを父と新郎が笑顔で切っているもの。

 二人の栄えある未来を願いますが、主役不在の会にしてしまった原因は「検査を受けた」ことにあります。コロナ前は若干熱っぽいな、少し喉が痛いな、程度ならば結婚式という一大イベントには総合感冒薬飲んで参加していたはずでは。検査さえしなければよかったのに、とつくづく思います。検査をした理由は「高齢者も来るから」「クラスター発生したら申し訳ない」にあったのでしょう。しかし、会場で検査をしたら元気な人からも陽性者は数名出ると思います。コロナってそういうものなんです。

 このツイートに7万超の「いいね(実際はハートマーク)」がつき、式の開催を祝福するコメントも多数書き込まれ、美しい話として消費されたのです。新郎新婦や家族、会場スタッフの知恵を賞賛する意見もありました。

 とにかく「うつらないうつさない」という思想が人々に刷り込まれてしまった。この思想を守るためには、娯楽なんてものは我慢しなくてはならない、という空気感が完成しちまったなァ……、とこれらコメントを見て愕然としました。「私のことを直接祝ってもらい、会場で皆さんとあいさつすることよりも、うつさないことが大事」――こんな利他的で自己犠牲を強いる社会になってしまったのです。

 まさに「娯楽する者は不届き者」的な空気感が支配したため、コロナにおける「設定」は修行・清貧的なものになりました。一つは「クラスターは楽しい場所で発生する」。ライブ、スポーツ観戦、音楽フェス、テーマパーク、屋形船、各種イベント、祭、学校行事、飲み会、接待を伴う飲食(変な日本語だ)、成人式、卒業式&入学式、結婚式は「悪」と認定されました。そして、最近でも陽性者が出た学校の報道では「文化祭の後に」「体育祭の後に」という言葉が加えられるようになったのです。

 しかし、クラスター発生場所のデータを見ると、決して楽しい場所で発生しているわけではない。厚労省公表データによると、4月24日~30日の「全国における施設別のクラスター発生割合」は以下の数字となっています。高齢者施設65.52%、障害者施設5.75%、児童施設2.30%、学校施設5.75%、医療機関19.54%、飲食店1.15%、事業所等0%、その他0%。高齢者施設と医療機関を合わせると85.06%。決して楽しい場所というくくりに入らないこの2種の施設がクラスター発生の大部分を占めているのです。

 さらに、国会と満員電車と選挙では発生しないということになっています。必要火急と考えられているからでしょう。別に楽しい場所ではないですしね。

 この3年半、気が緩んで散々飲みまくり、マスクなど東京-福岡の飛行機以外ではほぼ装着しなかった私は一度もコロナ感染はありません。理由は検査をしないからです。この理屈が分からない方はコロナに一生縛られる人生を送ることになります。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年7月6日号掲載

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