薬は何種類から害になる? たんぱく質は1日何グラム必要? 高齢者に必要な「増食」「減薬」を指南

ドクター新潮 ライフ

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 時代は常に移りゆく。人生100年時代を迎えた今、「昭和の常識」にとらわれていては超高齢社会を生き抜くことはできない。かつては良いとされていた健康対策が今では……。高齢者は何を増やし、何を減らすべきなのか。専門家が説く「令和の健康新常識」。

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 近年、「サザエさん」に登場する波平さんの年齢が実は54歳であるとネット上で話題になりました。そしてさらなる驚きは、B’zの稲葉浩志さんが波平さんよりも年上であるという事実でした。

「サザエさん」の連載が始まったのは1940年代。それから70年以上がたち、日本人の平均寿命は飛躍的に延びました。54歳の波平さんが「おじいちゃん」のような見た目なのに対し、稲葉さんのことをおじいちゃんだと感じる人はまずいないでしょう。つまり、「高齢者」や「老後」の定義は時代とともに変わっていくわけです。

 当然、高齢者における健康常識も変わっていきます。昔は減らしたほうがいいと思われていたものが今では増やしたほうがいいとされ、逆もまたしかり。この「健康新常識」をしっかりと理解することが、人生100年時代をより良く生きる上では欠かせません。

「病院のガイコツ」

〈こう解説するのは、熊本リハビリテーション病院でサルコペニア・低栄養研究センター長を務める吉村芳弘医師だ。

 国際的な臨床栄養の専門資格「European ESPEN Diploma」を取得した数少ない日本人医師のひとりである吉村氏は、やせ細っていく高齢の入院患者の実情を目の当たりにし、高齢者における低栄養のリスクを説いてきた。

 未だに根強い「粗食信仰」が、いかに高齢者にとっては危険か。吉村医師は、低栄養でやせ細ってしまった入院患者を「病院のガイコツ」という刺激的な言葉で表現し、その悪弊に警鐘を鳴らす。〉

「昔の医療」による弊害

 入院したらとにかく安静にすることが大事――こう思われている方が少なくないと思います。

 しかし、手術に成功したのに日常生活に戻ることができない患者さんを私は多く見てきました。退院したのに寝たきりになってしまった、病気は治ったけれどほどなくして亡くなってしまった……。これには、手術後は寝かせっぱなし、点滴を打ちっぱなしにするという「昔の医療」による弊害が影響していると指摘できるかもしれません。

 確かに人生50年、60年時代であれば、高齢者がとにかくいまかかっている病気を治すことに集中するのは、必ずしも間違っていなかったといえるでしょう。

 しかし、人生100年時代においては、仮に60歳でその病気を治したとしても、人生はまだ40年続きます。入院し、安静にして病気が治っても、点滴の打ちっぱなしでやせ細り、「病院のガイコツ」になってしまっては、その後の40年間を健康に過ごすことは困難です。

 ベッドで安静にしている患者さんは、普通の人が加齢に伴い1年で失う筋肉量をわずか2日で失ってしまいます。まさに病院のガイコツです。これでは病気が治ったところで、その後、歩くこともままならなくなり、サルコペニア(加齢による筋肉量減少)、そしてフレイル(虚弱)へと突き進んでしまいます。

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