「配送」を軸に事業展開し市場の1割を目指す――佐藤順一(カクヤスグループ会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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 酒の市場は1996年がピークで、現在はその半分以下の規模になっている。若者の酒離れはかねて指摘されてきたが、そこにコロナ禍が襲った。こうした厳しい状況下にあって、酒の配送で事業拡大してきたのがカクヤスだ。その成長の秘訣(ひけつ)はどこにあるのか。危機をチャンスに変えた事業構築力の核心。

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佐藤 いまはなくなってしまったのですが、新宿の自宅近くにあったカクヤスにはよく行っていました。驚いたのは、その品ぞろえです。ウオッカでも、ロシア産のものが3種、ほかにポーランド、アメリカ、日本産のものもありました。

佐藤順一 ありがとうございます。業務用の販売もやっていますので、品ぞろえは豊富です。またお客さまが要望されるお酒が地域によって違うので、ここではアイリッシュウイスキーを置いておこうとか、ウチはワインを充実させようとか、それぞれの店で少しずつ特徴があります。

佐藤 そこは建て替えでマンションになりましたが、カクヤスのピンクの配送車が行き交うのは、いまもよく見かけます。すっかり街の風景になじんでいますね。

佐藤(順) お住まい付近の坂道が多い地域は、自転車でも上り下りがたいへんですから、お届けの需要が強いんです。文京区や目黒区なども、数多く走って回っています。

佐藤 現在、店舗数はどのくらいあるのですか。

佐藤(順) 家庭用と店舗販売していない業務用を合わせて、220拠点ほどです。

佐藤 カクヤスの「ヤス」は安売りの「安」でなく、お名前から取られたそうですね。

佐藤(順) 創業者である祖父・安蔵の「ヤス」です。「カク」の方は、酒の四角い升の「角」ですね。その祖父が1921年に作った業務用の「カクヤス酒店」が始まりです。

佐藤 その1店からここまで成長されたわけですが、資料を拝見すると、お酒を扱っているけれども、事業の核にあるのは「配送」ですね。さまざまな危機に、配送から事業を立て直されている。

佐藤(順) まあ、たまたまそうなったという感じですよ。

佐藤 最初は、家庭用はやられていなかった。

佐藤(順) ずっと業務用酒販店でした。私が入社したのは1981年で、やがて世の中はバブルの時代に入っていきます。その時にやはり飲食店がたくさんできたんですね。そこに営業をかけて売り上げがどんどん伸びていった。でもバブルが崩壊すると、やはりバブルの中で開店した店から潰れていきました。

佐藤 必要以上にお金をかけた高い店が多かったでしょうからね。

佐藤(順) 当然、不良債権がどんどん増え、資金繰りが悪化します。この時、お酒の安売り店を始めたんですね。

佐藤 これは一般家庭向けですね。

佐藤(順) ええ、北区豊島のコンビニ跡地にオープンしました。ただ安売りといっても、郊外型のディスカウントショップには価格で負けてしまう。店も小さいし、道路付けがよくない上、駐車場もない。そこでどうやったら勝てるかと考えて、行き着いたのが配達だったんです。

佐藤 つまり宅配付ディスカウント店が誕生した。

佐藤(順) そもそもお酒は、非常に差別化しにくい商品です。どこでも同じ品質のものを売っていますから、品ぞろえか値段で差別化するしかない。でも品ぞろえは、激レアのウイスキーや焼酎を何本でもお売りすることはできないわけです。だからどこも価格競争をすることになる。ただ小さな店では郊外型にはかないません。

佐藤 昔、酒屋さんは注文を聞きにきて、翌日に配達という仕組みでした。重たい商品ですから、配達は客には大きなメリットがあります。

佐藤(順) ただ開店してみると、あまり配達の需要はなく、お店でいっぱい売れたんですよ。価格で劣っているはずなのに、どうしてなのか。そこはもう私の不見識で、商圏がまったく異なっていたからなんですね。郊外型は環状7号線のずっと外側で、私の店は内側。だから、配達はやらなくてもよかったんです。

佐藤 そこが配送の原点になったのは、非常に興味深いですね。

佐藤(順) 当時は1回300円の配送料をいただいていました。でも「酒屋なのに配送料を取るのか」と、クレームが入る。郊外型ディスカウントショップは配達しませんから、多少の人件費をいただくのも仕方ないのでは、と説明するのですが、なかなか納得していただけない。

佐藤 その300円には根拠があったのですか。

佐藤(順) 当時、バイトの時給は900円くらいでした。1時間に3件配達すれば、人件費が出ると計算したのです。でもお客さまの不満が強いので、売上高に対する人件費の割合を、レジと配達で比べてみた。そうしたら、実は同じ7%でした。

佐藤 どうしてそんなことが起きるのですか。

佐藤(順) 配達の客単価が高かったからです。当時は平均すると1回約1万6千円。レジは1500円くらいですから、その10回分です。それでまず1万円以上の注文は無料配送にし、その額をどんどん下げていき、最後はすべて無料配送にしたんです。

佐藤 やらなくていい配送なら、普通はやめてしまうでしょう。そこを突き詰めていったから、いまがある。

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