ソウル市議会に「犬食禁止」の条例案が提出 背後にペットバラエティにも出演の尹錫悦大統領夫人

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 5月31日、ソウル市議会に、「ソウル市内の食犬を取り扱う食堂と業者に500万ウォン(約55万円)の罰金を課す」という条例案が提出された。この条例案を発議した保守与党「国民の力」所属の金志享(キム・ジヒャン)議員はこう語った。

「韓国ではペットを飼う人口が1,300万もいる時代で、犬食の終息は時代的流れ。犬肉の流通実態が潜在的な伝染病と衛生問題を引き起こす恐れがあり、食犬業界の自然な廃業を誘導する必要がある」

 この条例が可決されれば、ソウル市内の食犬食堂は全滅すると予想される。現在も動物保護団体を中心に食犬食堂に反対するデモやインターネット上での抗議の声は強い。加えて、韓国内で犬を殺して食べることは動物保護法に反しており、最近はこの法律の改正も行われた。食犬に対して「未開の過去の文化」「国家恥辱の原因」という否定的なイメージをもつ韓国人も多くなってきている。

 日本のウーバーイーツのようなデリバリーサービス会社でも、食犬食堂のデリバリーは扱っていない。そもそも新型コロナウイルスで犬肉食堂の経営は悪化していた。そこに500万ウォンの罰金を課されれば、営業を続ける店はないだろうといわれる。

 世論はこの条例案に歓迎ムードだが、とはいえ食犬を諦められない人々はいる。6月8日、「大韓肉犬協会」という団体に所属している食犬業者数十人が大統領官邸の前に集まり、「食犬反対に反対する」として抗議のデモを行った。この日、金志享議員は彼らとの懇談会を開催したが、業者の意見は「廃業を望むならば補償せよ」という趣旨が大半を占め、結局は政府の金銭的な支援が焦点になりそうだ。

食犬禁止に強力な助っ人

 じつは昨年もソウル市議会は「食犬禁止」に関する条例を議案するも、肉犬協会などの反対で採決に至らなかった経緯がある。ソウル市議会だけでなく、国会でも何度も食犬根絶のための法律発議とキャンペーンに乗り出してきたが、生存権を主張する業者の反発に阻まれてきた。

 しかし、今回は雰囲気が少し違う。食犬終息を積極的に後押ししているのがファーストレディーだからだ。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と金建希(キム・ゴンヒ)夫妻は、犬や猫など計11匹を飼うほどペットラバーとして有名である。最近は韓国で動物を扱っている人気バラエティ番組「TV動物農場」に大統領夫妻が出演し、子供を流産したあとから犬を飼い始めた話や、ペットを保護するための政策に関する意見を語り注目を集めた。

 夫人の金建希氏は、15年以上も前から捨て犬保護のボランティア活動に参加したり、遺棄・虐待動物治療のための金銭支援をしてきた。食犬に対しては、もちろん大反対の立場をとっている。

 昨年6月にもソウル新聞とのインタビューで、「経済規模の大きな国の中で、犬を食べるのは韓国と中国だけ」「(食犬のせいで)韓国に反感を持たれるおそれがある」「犬肉は実は体にもよくない。犬を食べないことは、人間と最も近い友人に対する尊重であり、生命に対する尊重を意味する」と語っている。

 このインタビューの反響は大きかった。文在寅(ムン・ジェイン)元大統領が任期末に設立した政府傘下の「犬食用問題議論のための委員会」が運営期間を延長し、食犬終息に関する議論が持続することになった。またメディアも食犬業者に批判的な内容の報道を流した。今年4月には金建希氏が動物保護市民団体と会い、「犬食終息のために努力する」と合意。今回の条例発議に結びついたといわれる。

 動物保護への姿勢は、文在寅氏とはかなり対照的だ。文氏は2018年の南北首脳会談で、北朝鮮から両国の友好の象徴として子犬を贈られた。しかし、大統領の任期が終わったとたん、「これ以上は育てられない」と保護施設に送り、世論の強い叱責を受けた。

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