大胆不敵な天海祐希、地味に支える松下洸平コンビが秀逸な「合理的にあり得ない」

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 大物女優が主演の2時間ドラマには、謎の「着せ替え変装タイム」があった。バスガイドの萬田久子とか探偵のかたせ梨乃とか。平成の話な。もう平成もいにしえなのか……そんなことを想起させたのが天海祐希主演「合理的にあり得ない」。キャディーに警備員、中国人マッサージ師に謎の中国人大富豪、ボディコン&トサカ頭のバブリー女、新米ホステスに学生食堂のおばちゃん、ベテラン芸者、姑娘(クーニャン)スタイルでアクションもお披露目……天海姐さん、やっちまってんな~。最初は「いにしえの香りが……」と思っていた。ほら、他のドラマが軒並み若手&ジャニーズだらけだから、目立つのよ、いにしえが。関係ないけど、FENDIが似合うのは天海姐さんだよ。FENDIもTBSじゃなくてカンテレに衣装協力しておくれよ。ハイブランドをかっこよく着こなせるはずの天海姐さんが、素っ頓狂&昭和の夜の宴会芸の香りすら漂う変装でねぇ。

 細目で眺めていたのだが、潮目が変わった。バディを組む松下洸平との背景が見えてきて、お互いの信頼が視聴者に伝わり始めたから。

 天海姐さん、そもそもは敏腕弁護士。ところが、誰かの陰謀で何かを盛られたのか、われを失い、目の前の男性をボッコボコにした傷害罪でお縄頂戴した過去がある。執行猶予はついたものの、弁護士資格は剥奪。今は歌舞伎町で探偵事務所を営んでいるという設定だ。

 右腕の松下は、猫つながり(半ば脅迫)で外見採用された男。実はアメリカで研究職に就いていたIQ140という天才で、探偵業務に役立つ知識豊富。ギターも弾けるし、ルービックキューブも片手で瞬殺できる。ただし、女性と交際経験がない、猫に目がないという設定だ。シャツとセーターをパンツにインしたり、サスペンダーという、地味に独特なこだわりの服装ね。

 母と妹を殺した容疑をかけられた父(小林隆)が植物状態という、凄絶な事情がある。政治家の不正献金にまつわる事件で、父は無罪とわかるが、なにやらまだ隠し事がありそうな気配。大胆不敵な天海姐さんを、地味に確実に支える。年齢や性別関係なく、生き物として敬意を払いあうのはいいコンビだ。

 事件を起こした天海姐さんを即解雇した社長(仲村トオル)、天海姐さんにほの字(死語)のダーティハリー好きな元刑事(丸山智己)、実は八面六臂(ろっぴ)の暗躍で天海姐さん&松下を支える下働き(中川大輔)と、高身長で渋塩顔の皆さんも賑やかす。トオルの箱入り娘で筋金入りのお嬢様(白石聖)も事務員として働き、天海姐さんの探偵事務所は赤字とはいえ、なんとか回っている。

 ゲストも盤石。因縁の美容皮膚科医(強欲が巻髪に表れていた水野美紀)や天海姐さんの高校の後輩(詐欺師のカモネギ・眞島秀和)など。平均身長も平均年齢も高いと、なんだか安心するな。ただ、全体的にもう少しスタイリッシュにならんかったんかな。素材(役者)は逸品なのに、皿と盛り付けが古風で損したような。ともあれ、天海姐さんと松下のバディは好物です。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年6月22日号掲載

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