「何よりも選手の気持ちを優先」「プライドを傷つけないよう部屋に出向いて対話」 森保監督の監督術をコーチ陣が明かす

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ハーフタイムに魔法が?

 取材に入る前、どうしても知りたい謎があった。

 決勝トーナメント進出を決めたスペイン戦、あまりに鮮やかな逆転劇はどうして生まれたのか? 前半、日本はほとんどボールを持てなかった。それでも、勝ったのは日本だった。

 ハーフタイムの間に何か魔法がかけられたのか?

 横内が言う。

「ロッカールームに戻ると、監督や僕たちが言う以前に、選手たちがポジティブな声をかけ合っていました」

 選手たちが「よしOK!」「後半いけるぞ」と叫ぶ声がハーフタイムのロッカールームに響き渡っていた。

「その上で、森保監督の熱い言葉でギアが入りました」

 それまで準備したとおりに試合が展開し、選手のテンションは高揚していた。

「ドイツ戦の成功体験も大きかったでしょうね」(上野)

 森保監督は、予定どおり後半の最初から堂安、三笘を投入した。それが言葉以上のメッセージとなり、アクセルを踏むゴーサインとなった。

 後半が始まると日本は一転して攻勢に転じる。開始3分に堂安がゴールを決め、その3分後に三笘の「1ミリ」の切り返しを田中碧が押し込んで逆転した。

一対一で伝えるときは

 監督、コーチと選手が一体になってチームの勢いを醸成した森保ジャパン。難しいといわれる若い世代とのコミュニケーションが見事に機能した。果たして、指導者と選手の関係性は以前と変わったのか、対応する上での努力があったのか? 横内、上野にそれぞれ聞いた。まずは横内。

「根本はそんなに変わっていないと思います。ただ、選手は一人一人違うので、アプローチの仕方は変えています。言い方も変えるようにしている。

 チーム全体に発するときは強い口調でも大丈夫。一対一で伝えるときは、選手のパーソナリティーに合った方法で言う方がわかってもらえる。僕らが選手の頃は監督・コーチの言うことがすべてでした。でも、いろんな情報が飛び交って、選手自身がSNSで情報を得られる時代です。頭ごなしではついてきません」

 横内から見て、森保の接し方はどうだったか?

「森保監督はすべての選手に対して自分の思いを伝えて、選手の思いも聞くタイプ。それで足りないところは僕らコーチがコミュニケーションを取る。そういうやり方でした。選手によって細かく変えていました」

 この姿勢は「サッカー界全体が共有している認識だ」と上野が言う。

「指導者になるには、日本サッカー協会のライセンスを取得しなければなりません。C級、B級でも必ず、『押し付ける指導はダメ』『選手の話をよく聞く』といった基本を学びます。選手ファーストの方針をサッカー界がこうして共有しているのは大切な基盤になっていると思います」

 カタール大会でコーチを務めた横内、齊藤、上野の三人はいずれも最高クラスのS級ライセンス(JFA公認S級コーチ)を持っている。森保監督ももちろんS級保持者だ。その資格がないとJリーグの監督は務められない。ここは野球との大きな相違点だ。野球界には、プロアマ共通の指導者資格も統一的な指導マニュアルもない。

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