完全に愛されキャラに定着した阪神・岡田監督 テキトーな上司のありがたさ(中川淳一郎)

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 阪神タイガースの岡田彰布、完全に愛されキャラ度合が高まりましたね。今や何を言っても好意的に捉えられる。5月30日のデイリースポーツ電子版のタイトルは「阪神・岡田監督 対佐々木朗へ『マメでけへんかなあ(笑)』率直すぎる一言に虎党爆笑『いちいちおもろい』『リスペクト感じる』」とあります。

 ロッテの佐々木朗希投手が相手だとなかなか打てないため、つい出てきてしまった本音なのでしょうが、ロッテファンであってもこれには苦笑せざるを得ない。阪神は5月末段階で首位を独走していますが、岡田監督のメディア使いが上手過ぎます。何しろ、チーム全体が明るい雰囲気に包まれているように読者が感じられるのだから。

 こういう上司だと部下としてはやりやすいですよね。もちろん、厳しく育ててくれる上司もいいですが、時々はこのタイプもいいです。そう考えると自分の会社員時代はまさにそうだったな、と思います。

 最初の上司は当時32歳のA氏。「中堅」になりたてで、かなりテキトーな人物でした。よく覚えているエピソードは、広告業界をバカバカしく描く漫画「気まぐれコンセプト」を険しい表情で読んでいた時のこと。もしや、あまりにもひどい業界への名誉毀損のため、版元を訴える準備でもしているのか!と思い「何か誤りがあったのですか?」と聞いたら感心したように「8割は当たってるな……」と言う。

 別の時、「外での打ち合わせは16時から入れるのが正しい」と言いました。そして打ち合わせが17時頃終了した時、「16時にするのが良い理由が分かったか?」と聞くので「これからもうひと働きできるからですか?」と答えたら「違う」とひとこと。

 その心は「17時に打ち合わせが終わったらそのまま飲みに行って、17時半の退社時刻に会社へ電話して『直帰します』と言えるんだよ。15時に打ち合わせを入れるとさすがに会社戻らなくちゃいけないからな」にありました。

 別の上司、B氏の下にいた時、私が担当している食品に異物が混入し、回収騒動になりました。私は「ヤバいです。これ、どうしましょうか!」とB氏の指示を仰ぎに行きます。するとB氏は「マジか!」と言い「う~ん、困ったな」とうなります。さすが、対策を考えてくれるんだな、上司ってすげーや、と思ったら、「まずいな。オレ、この前箱買いしちゃったんだよ……」とこぼします。そこで部下たる私は「いや、そこですか!」と突っ込むべきだったのですが、ご丁寧にも「Bさん、フリーダイヤルの番号はコレですから」と伝えるありさま。

 他にもリスクコミュニケーションの勉強会の時、講師を務めたC部長から「この場合どう対応すべきか?」と振られたD部長、とっさの答えは「Cさんに聞きに行きます」でした。

 ちなみに32歳のA氏のことは私が初めて書いた本で「私には、ちょっとチャランポランな上司がいました」と紹介しています。後日その部分を読んだA氏には「ひでーよな、お前、なんだよ『ちょっとチャランポラン』って。ちゃんと『かなりチャランポラン』と事実を書けよ!」と怒られてしまったのでした。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年6月15日号掲載

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