「戦前の日本と同じ」 サイボウズ青野慶久社長が語る「現在のマイナカードは社会に不要です」

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次々と露見するトラブルの内容は

 次々と露見するマイナンバーカードのトラブル。6月12日、国会論戦の場ではついに河野太郎デジタル大臣の更迭要求まで飛び出した。それでも「来年秋の(保険証の)廃止に向けて取り組んでいきたい」と保険証とマイナカードの一体化を見直すつもりがないことを強調した岸田文雄総理大臣。今後の解散戦略にも影響が生じかねないマイナカードのトラブルはいかにして起きたのか――。

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 岸田総理の期待を背負い、河野大臣は就任当初から、「マイナカードの普及に取り組みたい」と、ツイッターフォロワー数約266万人という強みを生かし、マイナカードの利点について発信してきた。

 だが、そうした河野大臣の発言とは裏腹に、目下、続発するトラブル。例としては以下のようなものがある。

・コンビニで住民票の写しなどを受け取ったところ、別人のものが交付された

・マイナポイントが別人に誤付与された

・公金受取口座に家族名義の口座が約13万件登録され、別人の口座が748件誤登録されていた

・マイナ保険証に別人の情報が約7300件誤登録された

・他人の年金記録がひもづいて、マイナポータルで閲覧できる状態だった

 ポイント事業など普及に向けてこれまで2兆円を超える予算を組みながら、さまざまなリスクが指摘されるマイナカード。マイナンバーはすでに2015年、全国民に番号が振られ、制度としての運用が始まっている。今回のマイナカード騒動は、複雑な設計を重ねたカードにさまざまな機能を搭載し、普及を急ごうとした結果、ゆがみが顕在化してしまった事態といえる。

「戦前の日本と同じ」

 この期に及んでマイナンバーカードのゆがみを直視しようとしない岸田政権。

「マイナカードによって生活は特に便利になっていません。なのに、なぜ物理的なカードを全国民に配るのか、極めて不合理です」

 と、マイナカードについて「日本特有の組織の問題」を指摘するのはサイボウズ株式会社の青野慶久社長である。言うまでもなく同社は、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進などに関わるIT企業。しかしながら、かねて青野氏はマイナカード不要論を唱えてきたという。

「まず、開発のためのコストが兆円単位と、かかりすぎています。その割に利便性が低く、情報が漏れるというリスクがある。なぜこんなことになったのか。根本的な原因として、日本特有の組織の問題があると思います。マイナカードは制度が始まって4年がたっても普及率が2割にも満たなかった。国民にとって必要性の低い失敗プロジェクトでした。それなのに、止めることができず、マイナ保険証などあの手この手で延命させています」

 その姿がまるで戦前の日本と重なって見える、と青野氏は続ける。

「なぜ日本は戦争を止められなかったのか。戦略的撤退ができないという点で、いまのマイナカードプロジェクトは戦前の日本と同じ組織的な誤謬(ごびゅう)に陥っているように思います。失敗自体は仕方ありません。ただ、その損失が拡大する前に事業撤退すべきでした。マイナンバー自体は社会を効率化できると思う一方、現在のマイナカードは社会に不要です」

 その推進役である河野大臣の資質を疑う声も上がっている。

 政治ジャーナリストの青山和弘氏の話。

「マイナカード問題は国民全員が当事者なので、野党は“国民受けが良い”と捉えています。選挙になれば野党はここを突いてくる。そういう意味でも河野さんの立場は苦しくなりました。カードを一気に普及させる突破力の反面、強引さがいまの問題につながったことから“河野さんの悪いところが出た”という声が自民党内から聞こえてきます。まさに正念場です」

 6月15日発売の「週刊新潮」では、このほかにもマイナンバーカード運用の中核を担っている「J-LIS」の抱える問題や、この春から始まった「保険証差別」ともいえる施策、マイナ保険証で混乱を極める医療現場の悲鳴など、マイナカードを巡るトラブル、混乱の根本を詳しく報じる。

週刊新潮 2023年6月22日号掲載

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