没後30年「アンドレ・ザ・ジャイアント」伝説を検証 サッポロビール園で大ジョッキ78杯を飲み干したのは本当か?

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「生ビール78杯」伝説の真相

 もちろん、人気、実力も法外そのもの。1974年のギネスブックに「年俸世界記録40万ドルのプロレスラー」として登場。同年の1ドルのレートは約300円で、計算すると約1億2000万円と、やや驚かぬ数字になるが、当時の私鉄の初乗り料金が約34円。それから今を振り返れば5~6倍に換算も可能だろう。

 なお、人気に寄与したのが、当時の所属団体WWF(現WWE)の戦略だ。アンドレについては、自団体の専属契約とせず、他団体への貸し出しを可能にしたのである。新鮮味が薄れぬよう、全米各地を転戦させ、団体としてはそのブッキング料で稼ぎ、アンドレ自身は知名度も上げられるという一石二鳥の手法だった。

 巨漢ゆえ、通常の乗用車には乗れないアンドレに対し、WWF側が天井が30㎝高い専門のバンを用意したことも、その評価を物語る。

「アンドレをフォールしたものには賞金を与える」

 という喧伝もしかり。出所がしっかりしているものとして、1983年5月5日、新日本プロレスのIWGPシリーズ前夜祭で当時のWWF社長のビンス・マクマホンが「フォールしたものに30万ドル」と公約している(時のレート換算で約7200万円。現在の価値で約1億5000万円)。

 アンドレ・ザ・ジャイアントに改名したのは1973年だが、以降はフォール負けなし、ギブアップ負けなしの、まさに無敵だったのだ。

「ブラジルからニューヨークへの渡航の合間に、飛行機内のビールを全部飲み干してしまったことがあった」(坂口征二・談)、

「ワインのボトルを人差し指と中指に挟んで、タバコみたいに飲む」(長州力。フジテレビ「人志松本の酒のツマミになる話」より)

 など、プロレスラーだけに、酒豪としての伝説にも事欠かない。特に、日本ならでは、という部分でファンの間でも長く知られているのが、次の逸聞だ。

「アンドレは、サッポロビール園で生ビールを大ジョッキで78杯も飲み、同園から追い出された。その数字は同園の記録として残っている」

 コロナ禍による対面飲食禁止も解禁された。さらにはこれから夏本番で生ビールの季節到来ともあり、時期的にも注目の伝説といっていいだろう。1966年に創業したサッポロビール園は現在も営業中だ。

 この伝説の謎を、筆者の2015年の取材より解き明かしたい。取材を始めて最初に出てきた疑問は、「大ジョッキではなく、中ジョッキではないか」ということだった。

「はい、ウチの中ジョッキは通常よりサイズが大きく、普通の飲食店の大ジョッキ分の容量、0.8リットルなんです」

 と答えてくれたのは同社での勤続40年以上になるKさん(当時)。ということは、「大ジョッキで」という部分は、その場にいて目撃したかもしれない客から見れば、合っていることとなるか。ただし、Kさんは続けた。

「でも、78杯ということはないと思いますね。というのは、私はその時、実際にアンドレさんにビールをお運びしたんですよ」

 何と、Kさんは伝説の場に立ち会っていたのだ。

「飲食を提供するカウンター係というのを務めていましてね。私が入社して数年目のことでしたから、1970年代後半あたりじゃないでしょうか」

 当時の詳しい状況を聞いてみた。

「確かに、その中ジョッキで、40杯以上お出ししたのは覚えています。それと、ウチは2時間飲み放題なんですが、アンドレさんのために、それを2時間延長したんですよ」

 では、78杯というのは、嘘なのか?

「う~ん、心苦しいのですが……というのは、その時、アンドレさんの他に、マネージャーやレフェリーの方含め、6~7人いたんですよ。皆さん同じビールを飲んでましたし、会計はご一緒。皆さんで78杯ならまだしも、その時、アンドレさん個人の分を数える方がいたかどうか……」

 伝説には尾ひれが付くもの。実はこの78杯という数字は、前出の書籍『悪役レスラー~』からのものだが、他にも「74杯」(1993年1月31日、アンドレの追悼セレモニーにて)、「89杯」(『週刊プレイボーイ』1993年2月21日号)とまちまち。上記のような事情なら、それもわかろうものだろう。

 Kさんは続ける。

「何より、アンドレさん、途中で酔っ払いましてね。マネージャーさんに怒られてたんですよ。『もう飲むんじゃない!』って」

 どうやら前述の「追い出された」というのは、同園の時間制限プラス、マネージャー(同じくレスラー出身のフランク・バロア)からの叱咤が転化したものだろうか。

 ということは、気になる同園の記録の方は……。

「ウチはお客様に気分良く飲んで貰うのが仕事。記録の類いは、一切とっておりません(笑)」

 ただ、Kさんは続けてくれた。

「屋根のない男子トイレの近くを通った時のことです。驚きましたね。アンドレさんの頭がトイレの上からひょっこりはみ出ていたんです。あんな光景は、2度と見られないでしょうね」

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