これから観始めても遅くない「春ドラマ」3選 異質ぶりが際立つ「教場0」と海外刑事ドラマの共通点

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テレビ朝日(制作・朝日放送)「日曜の夜ぐらいは…」(日曜午後10時)

 孤独な女性3人に生まれる友情を描いている。主人公はファミレス店員の岸田サチ(清野菜名・28)。ラジオ番組の主催したバスツアーに参加し、タクシー運転手の野田翔子(岸井ゆきの・31)、ちくわぶ工場で働く若葉(生見愛瑠・21)と知り合う。

 ツアー中、それぞれが1枚ずつ宝くじを買った。うち1枚が1等3000万円に当たったことから、3人は運命共同体となる。

 宝くじが当たるまでのサチは絶望の日々を送っていた。「カネで幸せは買えない」と言うが、カネがないから起こる不幸せは確実にある。サチもそれを痛いほど味わっていた。
 高校時代、母・邦子(和久井映見・52)が転落事故によって下半身不随になった。父・中野博嗣(尾美としのり・57)とは離婚していたため、サチが働かなくてはならず、高校は中退した。

 その後、カフェでお茶を飲むことすら我慢するつましい生活を続けた。友人すらつくらなかった。ツアー中で親しくなった翔子、若葉とも連絡先を交換しなかった。

「楽しいことあると、きついの耐えられなくなるから」(サチ)

 愉快な時間を過ごしてしまうと、辛い日常が辛抱できなくなるためだ。脚本を書いている名手・岡田惠和氏(64)らしい深遠なセリフだった。

 もっとも、サチは2人と再会せざるを得なくなる。サチの手元にあった宝くじが当選したからである。当たったら山分けと話し合っていた。

 邦子は1人占めにすべきだと主張した。不思議な考えではない。サチの心も揺れた。それでも約束を守った。

 サチがそうした理由は裏切りが後ろめたいからだが、それ以上に翔子、若葉と再会したかったのである。金銭的な不安は解消されたのだから、もう友人づくりをあきらめる必要はない。

 サチが約束を守ったことに翔子と若葉は感動する。3人はたちまち固い絆で結ばれた。そもそも3人は似たもの同士だったのである。翔子と若葉も友人が存在せず、砂を噛むような日々を送っていた。

 この物語の端緒がラジオ番組のバスツアーだったのは、たまたまではない。物語を象徴している。ラジオのリスナーは少数派。リスナーがドラマで描かれることはほとんどない。岡田氏は少数派が懸命に生きる姿を描こうとしている。

 サチは高校中退だ。やはり少数派である。しかし、高校を中退する者は年間3万4965人(文部科学省調べ、2020年)もいる。その存在をドラマが忘れているだけなのである。

 3人の仕事もそう。ドラマに登場するのは国内勤労者のうち55%を占めるホワイトカラーばかりで、残りの45%に属するファミレス店員、タクシー運転手、工員らは描こうとしない。岡田氏はドラマ界が、いない人として扱っている少数派の実像を浮き彫りにしようとしている。多数派も少数派もその人生の重さが同等なのは言うまでもない。

 3人は共同でカフェを開くという夢を持つ。元手は当選金3000万円。さて、うまくいくのか。

 清野の透明感、岸井の存在感、生見の瑞々しさが生かされている。

TBS「日曜劇場 ラストマン-全盲の捜査官-」(日曜午後9時)

 ここ3年ほどの日曜劇場のカラーを踏襲し、殺人事件が起こる刑事ドラマながら、明るい。翌日からの学校や仕事を考えると、日曜夜はブルーになりがち。そんな気分に合っている。

 主人公は全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治・54)。目が不自由なハンデはほとんど感じさせない。人並み外れた聴覚や嗅覚を使い、捜査に当たるからだ。頭脳も明晰だからスーパーマンである。福山はフジ「ガリレオ」(2007年)の湯川学や今回の皆実など超人的な人物が似合う。

 皆実のパートナーは大泉洋(51)が演じる警察庁警部補の護道心太朗。大泉は愛すべき凡庸な男を演じさせたら天下一品なので、絶好の組み合わせだ。おまけに2人は同じ芸能事務所に所属し、仲が良い。だから掛け合いは愉快で、見どころの1つになっている。

 放送済みの第5話までの事件は皆実とそれをアシストした護道によってスピーディに解決した。ドラマのキャッチコピーには「ともに戦うんだ。」とあるので、今後は警視庁捜査1課の佐久良円花(吉田羊・49)らとの協調が進むのだろう。

 初回から貫かれている共通テーマもある。41年前に皆実から視力を奪い、両親を死なせた事件の真相解明だ。護道の父親・鎌田國士は強盗殺人犯ということになっているが、鎌田が皆実家を不幸に陥れた犯人なのか。後半も楽しめそう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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