AIロボット並みの超人、福山雅治が躍動する「ラストマン」 今後は不穏な展開に?

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 強い。強すぎる。全盲だが、最新ガジェットを駆使し、耳に装着したカメラ映像の情報を瞬時に音声データ化。聴覚で今いる環境を把握し、嗅覚で人間の心理状況まで察知。手で触れただけで遺体の死亡推定時刻がわかる。おまけに腕っぷしも強く、レーザーで距離を測る銃も使いこなす。しかも博識で、優雅な二枚目で、柔和な人たらし。日米の連携強化のために来た全盲のFBI捜査官・皆実(みなみ)広見。通称・ラストマン。演じるのは福山雅治だ。

 もちろん、観ていて胸がすくのだが、どんどん意地悪な気持ちが芽生えてくる。逆にどうしたら皆実を倒せるかを考え始めた。「ラストマン―全盲の捜査官―」の話である。たぶんミサイルすら華麗に避けると思われる。

 ラストマンのアテンドを命じられたのは警察庁長官一家の次男で、強引な捜査手法で警視庁の刑事たちからは嫌われている護道心太朗。次男といっても養子で、実父(津田健次郎)は強盗殺人の罪で服役中だという。今期ドラマ、なぜか「犯罪者の息子(家族)」が流行している。ともあれ、なかなかに激しい設定を背負わされているのが、大泉洋だ。

 このコンビがバンバン事件を解決しちゃうもんだから、警視庁捜査一課の面目丸つぶれ。一課がポンコツ&棒立ちにしか見えない構図に。検挙率トップを誇る佐久良円花警部補(吉田羊)の班は出し抜かれてばかり。そもそも心太朗を敵視してきた馬目刑事(松尾諭)は、皆実の一挙手一投足が気に食わない。佐久良は元カレである心太朗が、皆実とバディを組んで活躍する姿に、複雑な思いを抱いている。

 皆実の人たらしっぷりは、頑固な職人肌の鑑識・やじさん(川瀬陽太)ですら、あっという間に懐柔しちゃうほどだ。若くて優秀で従順な技術支援捜査官の吾妻(今田美桜)もかっさらっていくし。もう警視庁捜査一課的にはズタボロなわけさ。

 完璧すぎて浮世離れした皆実は、実は人間ではなく、AIロボットなのではないかと思ったりして。福山の美肌の質感もちょっとロボットっぽく見えてきちゃって。それはそれで面白いな。

 感嘆を通り越して疑念すら浮かぶ超人ぶりだが、ハンディキャップのある人にとっては、ガジェットの最新技術がどれだけ有益かという希望もある。最近は、SFと思っていたものがSFではなくなりつつあるし。

 で、ただただフロムアメリカの完璧なヒーローが、短期間で日本の警察組織を見事にコケにする、もとい、捜査協力するだけではなさそうだ。警察庁の元長官で心太朗の育ての親(寺尾聰)と、現・警察庁次長の兄(上川隆也)の動きが、不穏をそれとなく匂わせる。今後、不幸や不遇を背負うのはどうも大泉ひとりのような気がしていて。それも見もの。今回、大泉は実に真摯な役どころで、コメディー筋肉を80%封印しているのもよい。

 さて。AI福山というか、皆実をどうしたら倒せるか問題だが、思いついたのは「電源を奪う」だ。ガジェットも充電できなければ使えない。同局ドラマ「ペンディングトレイン」に乗せればいいという結論に至った。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年5月25日号掲載

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