阪神はなぜ生え抜きの“叩き上げ”が育たないのか…高卒野手は「掛布雅之」以降、誰一人伸びない“厳しい現実”

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「その年の一番いい選手を1位指名する」

 日本ハムは、2022年に支配下・育成合わせて79人にまで増やしているが、その前年の2021年は同70人で、12球団で最も選手数が少ないチームだった。そのドラフト戦略は「その年の一番いい選手を1位指名する」という、明快なポリシーを貫いている。

 2004年に東北高・ダルビッシュ有(現・サンディエゴ・パドレス)、2007年に大阪桐蔭高・中田翔(現・巨人)、2011年には東海大・菅野智之(現・巨人)を指名、入団を拒否されてもいる。

 2012年には、メジャー志望を打ち出していた花巻東・大谷翔平(現・ロサンゼルス・エンゼルス)を1位指名、投打の二刀流での育成プランを提示した上で翻意させ、入団にこぎつけている。

 そして、逸材を獲得、育成することとチームの成績は、面白いくらいにリンクしてくる。

 ダルビッシュの2年目、2006年に日本一、3年目の2007年はリーグ連覇、2009年もリーグ優勝を果たした。中田の場合も、144試合すべてに4番に座った2012年はリーグ優勝。大谷が投打の二刀流でリーグMVP、投手と指名打者でベストナインに選出された2016年は日本一に輝いている。

 ただ、年俸の高騰も伴い、球団の台所事情も踏まえた上で、ダルビッシュも大谷も「ポスティングシステム」でのメジャー移籍が容認されている。裏を返せば、育成した選手をメジャーに“売却”し、投資した資金を回収していることになるが、これも球団経営の一手段で、メジャーでも資金力の弱いスモールマーケットの球団が行っている。

 彼らがいなくなった後、その穴がすぐに埋まればいいが、日本ハムの場合は育成のサイクルがうまくいかなかったこともあり、2019年から3年連続5位、新庄剛志が監督に就任して大きな話題を呼んだ2022年も最下位に終わった。

実戦機会を減らさない

 日本ハムもヤクルトも“区別された選手の成長”とともに、チーム成績も好転させていくという好循環を生んできたのは、昨今のチーム成績を見れば明らかでもある。

 ただ、どちらも“そうせざるを得ない環境”であることも、また見逃せない。日本ハムは北海道がフランチャイズで、ファーム施設は、冬に降雪がほぼない地域に置いておくことが、いわば危機管理の一種。都心部に本拠地があるヤクルトも同様で、本拠地との距離なども踏まえた至便な土地の取得費用や設備投資などを考えても、相当な巨額投資になってしまう。

 こうしたハード面の制約からも、選手の人数を容易には増やせないのだ。

 そうすると、育成選手の数を抑え気味にした少数精鋭の“枠の中”で、どうやって伸ばしていくのかが、大きな課題になって来る。

 実は阪神は、その“少なめの選手数”に、平等の実戦機会を与えることに成功しているチームの1つでもある。1人あたりの試合数を、以下の計算式で出してみた。

 1試合12人。なお、計算を簡略にするため、投手と野手の区別はつけていない。また、ソフトバンクと巨人3軍の「非公式試合」、それ以外の球団の「練習試合」に関しては、球団ホームページで日程が確認できた試合数としている。

 また、1軍のオープン戦、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、ファームの日本選手権、教育リーグ、フェニックスリーグの試合数は、ここではカウントしていない。

 総試合数×12÷全選手数=選手一人あたりの試合数

 これで2022年を計算してみると、阪神がトップなのだ(記事末尾に一覧表を掲載)。ソフトバンクは、4軍制への拡大で、選手数が最大で122人、試合数を3、4軍で最大229試合まで組む方針で、実戦機会を減らさないための方策も立てている。

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