仮想通貨を稼ぐ「オンラインゲーム」が、なぜか“障害者”の就労支援につながる深い理由

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海外ではゲームの稼ぎだけで生計を立てる人も

 ゲームで遊びながら、お金を稼ぐ――。少し前の時代では考えられなかった「Play to Earn」(P2E)と呼ばれる稼ぎ方が、「web3」と呼ばれるデジタル新時代では当たり前のものになっている。最も盛んな東南アジアでは、ゲームで生計を立てる人がいるほど。そして、日本でも、この新たな試みが意外な場所で活用され始めているのだ。

 まずは、なぜ稼げるのか、という仕組みから説明していこう。「P2Eゲーム」「ブロックチェーンゲーム(BCG)」など呼び方は様々だが、プレーヤーはオンライン上でP2Eに対応したゲームを楽しみ、ゲーム内でキャラクターやアイテムを購入できる暗号資産(仮想通貨)を増やす。そこで稼いだ暗号資産を取引所で売却し、法定通貨に換金する、というのが大まかな流れだ。暗号資産の購入者もそのゲームのファンで、より魅力的なキャラやアイテムを購入するために暗号資産を求めるので売買が成立するのだ。

 このP2Eを成り立たせているのが、ブロックチェーンと呼ばれる技術。ブロックチェーンは、すべての取引データをネットワーク上のパソコンやサーバーなどの端末に分散して管理する技術で、ネットワークのセキュリティを飛躍的に高めた。この技術を基盤としてビットコインに代表される暗号資産が生まれ、デジタルアートの価値を成り立たせた「NFT」も注目を浴びている。P2Eも様々なアイデアが花開くweb3時代の新たな仕組みのひとつと言える。

 少し前であれば、子どもが家でゲームばかりしていたら、親は「時間とお金の無駄遣い」と叱っていたはずだ。しかし今後は、子どもがゲームする姿を、満足顔で見つめる親が増えていくかもしれない。P2Eゲームが盛んな東南アジアでは現時点でもあり得る話だ。

 たとえば、ベトナムのゲームメーカーが生み出した「アクシー・インフィニティ」は一時、1日約200万人のプレーヤーを抱えたことのある世界でも最も人気のP2Eゲームの1つだ。昨年の暗号資産暴落の影響を被っているとはいえ、先進国ほど物価の高くない東南アジアの国々ではゲームの稼ぎだけで生計を立てる人もいるという。

 そして、日本国内でもこの技術を利用した、新たな事業が現れ始めた。その最たるものが「P2E×障害者福祉」という取り組みだ。

「ゲームでお金を稼げるところが新鮮で楽しい」

 板橋区役所にほど近いビルのワンフロアでは、作業者一人にパソコン一台が用意され、その日は20~30人がパソコンに向かって作業に勤しんでいた。一見すると普通のオフィスと変わりない作りになっているが、GIF-TECH's(ギフテックス)と呼ばれるこの施設は「就労継続支援B型事業所」。作業に当たる全員が知的、精神、身体障害など、何らかの障害があり、その種類や重さも様々という。

 オフィス内では岡裕美さん(43)がパソコンに向かって、「ジョブトライブス」というP2Eのカードゲームをプレーしていた。ゲームを作ったのは日本人がシンガポールで創業したベンチャー企業。岡さんはキャラクターを駆使して、対戦に勝利。暗号資産「DEAPコイン」を入手した。企業から受注したリストへのデータ入力作業などの合間に、息抜きを兼ねて一日数十分程度、ゲームでお金を稼ぐ。

 身体障害に加え、10代からの解離性障害が重なる岡さんはこう話す。

「以前に働いていた作業所ではお弁当を作る作業をしていました。ただ、将来的に働き続けられるか不安で……。パソコンを使う仕事は求人が多く、在宅での仕事も可能だろうと考えていたんです。そんな時にギフテックスの存在を知って、昨年10月から働き始めました。ゲームでお金を稼げるところが新鮮で楽しいですね」

 岡さんの隣では、統合失調症がある石田諭一さん(36)が「エルフマスターズ」を楽しんでいた。日本のベンチャー企業のハッシュパレット(東京)が昨年公開したゲームで、ダンジョンを攻略することで報酬を得られる。SNSの運営などの作業の合間に楽しんでいるという。石田さんもパソコンで仕事ができる作業所を探してきたそうで、「これまでは仕事を転々としてきたけど、今は楽しい」と笑顔をのぞかせる。

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