「働かない社員」がいた方が企業は存続する? 数理物理学者が提言「社会には無駄な3割が必要」

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働きづめの機会損失

 渋滞もそうです。混雑時の抜け道情報を全員に教えると、みんながそちらに殺到して新たな渋滞が生まれてしまう。そこで全員でなく3割程度の人だけに教えると、元の道の渋滞も緩和され、抜け道も混雑しないことが分かっています。

 昨年、159人もの死者が出てしまった韓国の梨泰院(イテウォン)事故でもいかに無駄が大事なことかが分かります。賑(にぎ)わいを是として街全体にギュウギュウに人を詰め込んだ結果、悲惨な事故が起きて逆に街に人が寄り付かなくなってしまいました。

 企業も同じです。さまざまな組織を研究した結果、100年続いているような企業の多くがある程度の余裕を確保していることが分かりました。トラブルが起きず、イケイケドンドンの時は働かない社員は無駄かもしれません。ところが、予測不能な事態や業界内でのパラダイムシフトが起きた時に、普段はろくに仕事もせず遊んでいた社員が力を発揮する。「あっ、その新しいタイプの仕事に対応するなら、こんないい方法がありますよ。僕、仕事をサボって本ばっかり読んでいたので、そっち方面には結構強いんですよ」といった具合に、「働かないアリ」と同じような役割を果たしてくれるのです。

成績の悪い社員が潤滑油に

 そして、コロナ禍が改めて教えてくれたのは、自然界は平時ばかりではなく、必ず有事の時もあるということでした。ウイルスの猛威は収束しつつありますが、いつかはまた何らかの異常事態が発生するでしょう。その時に、真面目でせっせと働く優秀なアリのような社員ばかりの企業は、「新しいエサ場」を見つけることができない。

 営業部員の中に、ひとりだけ成績の悪い社員がいる企業がありました。その社員の存在を無駄と考えてクビにしたところ、逆に全員の営業成績が悪化してしまった。聞くと、成績の良い営業部員だけが残った結果、みんなで足の引っ張り合いを始めたそうです。クビにされた営業部員は、成績は悪かったものの人間関係のプロで部員同士の潤滑油的存在だった。無駄を抱え込むことが実は無駄ではないといういい例でしょう。

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