寝た子を起こす謝罪、第3者弁済のまやかし…岸田外交は日韓に時限爆弾を残した

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日本語版では消えた「日本の譲歩」

――でも今回、岸田首相が謝ったという認識なら、日本がまた謝る必要はないはずです。

鈴置:日本に謝らせ、国民の前で胸を張る。次の政権は自分も謝罪が欲しくなり、「これまでの謝罪は不十分だった」と言い出して謝れと要求する――。日韓関係はこの繰り返しでした。

 いずれ、韓国側は「あの謝罪は不十分だった。公式の謝罪ではなかった」と主張するはずです。特に今回は岸田首相本人が「個人の思いだ」として「国としての謝罪」を否定しているわけですし。

 冒頭で引用した「102分間の『韓日対坐』…福島視察・供給網共助・安保協力で合意」という記事には日本語版があります。「韓日首脳 韓国視察団の福島派遣・供給網連携・安保協力で合意」(5月7日)で、韓国語版の忠実な翻訳です。

 ところが、興味深いことに「去る3月の……進展したと評価できる」との1文だけが日本語版ではきれいに抜け落ちています。「譲歩させた」という部分を日本側には読まれたくなかったのでしょう。

――なぜ、読まれたくない?

鈴置:韓国政府は今は日本を刺激したくないのです。将来、「キシダは謝罪の慣例を守った」と言い張るためにも、現時点ではこの問題はそっとしておきたい。そこで日本語版では敏感な部分は削らせたと思われます。聯合ニュースには政府の資本が入っています。

 結局、岸田首相は中途半端に謝るという最悪の選択をしたわけです。「歴代内閣の立場を引き継ぐ」と言うだけに留めて置けば問題は起きないのに……。

後ろにはバイデンがいるぞ

――岸田首相はなぜ、謝ったのでしょうか。

鈴置:韓国の大統領室と外交部が「韓国側が譲歩したのに、日本側は一切譲歩していない」と謝罪を声高に求めていました。

「米韓首脳会談で尹錫悦大統領はJ・バイデン(Joe Biden)大統領の強力な支持を得た。日本が譲歩しないと米国に怒られるぞ」という記事も韓国紙に溢れました。もちろん、韓国政府が書かせた記事です。

 日本の外務省も根負けして、何らかの形での謝罪を考えたのでしょう。ただ、政府として謝れば、外務省が非難される。そこで「キシダ個人が謝る」という猿芝居を思いついたと思われます。

 先ほど韓国記者が「心が痛む」に関し質問したと説明しました。ただ「誰に対し心を痛めるのか」を聞いただけで「心を痛める主語は日本政府かキシダ個人か」とは聞いていないのです。

 ところが岸田首相は問いに正面から答えず、待ってましたとばかりに声を一段と張り上げて「私自身の思い」と強調したのです。「[韓日首脳会談]岸田、私見前提で徴用に遺憾を表明…公式の謝罪無し」の46分20秒以降です。

 韓国記者から「心が痛む」部分に関し質問が出るのは間違いないから、聞かれたらとにかく「私自身の思い」を強調するように――と外務省から振りつけられていたと思われます。そして外務省は記者に対し「日本政府は謝罪していない」と言い張ったのです。

日本は数十回謝罪

――尹錫悦大統領は「謝罪を求めない」と言っています。

鈴置:その通りです。首脳会談のため訪米する直前、尹錫悦大統領はワシントンポストと会見し「100年前の歴史を理由に日本人が許しを乞い、ひざまずかねばならぬ、との考えを私は受け入れることができない」と語りました。「Ukraine, China main focus as South Korean president visits White House」(4月24日)で、そのくだりは以下です。

・“Europe has experienced several wars for the past 100 years and despite that, warring countries have found ways to cooperate for the future,” he said. “I can’t accept the notion that because of what happened 100 years ago, something is absolutely impossible [to do] and that they [Japanese] must kneel [for forgiveness] because of our history 100 years ago. And this is an issue that requires decision. … In terms of persuasion, I believe I did my best.”

「3月の日韓首脳会談で日本からの謝罪がなかった」と批判された際にも「日本はすでに数十回にわたり、私たちに歴史問題について謝罪と反省を表明している」と語っています。

 3月21日の閣議で自らの立場を表明したのです。日本経済新聞の「韓国大統領『日本すでに数十回謝罪』 反日利用に反論」(3月21日)で読めます。

 5月7日の会談後の会見でも、記者に答える形で以下のように語りました。「[韓日首脳会談]岸田、私見前提で徴用に遺憾を表明…公式の謝罪無し」の55分10秒以降です。

・歴史に対する認識問題は誠実さを持って対処することが重要であり、一方が相手に要求できる問題ではないと考える。歴史を完全に整理できないから懸案と未来への協力のための一歩も踏み出してはならぬ、との認識から脱せねばならない。

 米国まで届く核を持ったと自称する北朝鮮との緊張が増す中、日本の謝罪にこだわれば日本――引いては安保の頼みの綱の米国との関係を危うくする、との尹錫悦大統領の危機感がひしひしと伝わってきます。

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