「鬼滅の刃」「スラムダンク」「名探偵コナン」… 実写を尻目にメガヒットが続く「劇場アニメ」知られざる“ヒットの構造”

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 かつて日本の「アニメ映画」といえば、興行収入10億円突破がヒットの基準とされ、ひと昔前までは「宮崎駿監督のジブリ作品以外で興収100億円超えはムリ」と真顔で語られた。それがいまや「興行収入100億円突破」で、劇場版アニメは“大型ヒット”と認められる時代へ突入。様変わりの背景にあるのは、映画鑑賞から派生した様々な「体験消費」の広がりという。【数土直志/ジャーナリスト】

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 日本国内における歴代興行収入の1位に輝くのは『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年公開)である。400億円を超える興行収入を叩き出し、国内映画史上最大のヒット作となった。

 当時は「何十年に一度の社会現象」とも考えられたが、いまから振り返るとそうではなかった。21年公開の『劇場版 呪術廻戦0』は興収138億円、22年公開の『ONE PIECE FILM RED』は同197憶円と、劇場アニメの大ヒットはその後も続いている。

 現在公開中の『すずめの戸締まり』と『THE FIRST SLAM DUNK(スラムダンク)』もすでに興収100億円を超え、いずれも日本を飛び越えて中国と韓国でも大ヒット中だ。

 実は国内の歴代興行成績のトップ10作品のうち6本を邦画アニメが占め、うち4本は過去3年間の作品である。劇場アニメを取り巻く環境を大きく変える契機となったのは、新海誠監督の『君の名は。』(16年公開)だろう。同作品は興収250億円を記録し、アニメ映画の世界を一変させた。

 劇場アニメのヒットが続出しているのは“偶然”ではない。アニメを取り巻く環境と映画ビジネスの変化という大きな潮流に乗ったものといえるのだ。

明暗を分けた実写とアニメ

 現在上映中の『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』(4月14日公開)は5月1日時点で興収が79.7億円と、シリーズ初の100億円突破は確実と見られている。「名探偵コナン」の劇場版がスタートしたのは1997年。もともと人気の高い作品だったが、2000年代の興収20億~30億円台で推移した時期を経て、10年代後半以降、右肩上がりに動員を増やした。

 アニメファンそのものの裾野の広がりに加え、子供時代にコナンを観ていた大人が劇場に足を運んでいる点は見逃せない。実際、コナン最新作ではサスペンスやロマンス、謎解きの要素などストーリーが複雑化しており、以前と比べて大人に向けた作品に仕上がっている。

 こういった傾向はコナンだけでなく、『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』『クレヨンしんちゃん』など、年々動員を伸ばしているシリーズに共通するものだ。すでにアニメは従来の「子供向けコンテンツ」ではなくなっているのだ。

 アニメ映画が劇場を席巻する一方で、実写映画の興行はやや冴えない。22年の最大のヒット作『キングダム2 遥かなる大地へ』で興収51億円。同年には600本あまりの邦画が公開され、1465億円の市場規模を誇ったが、本数で1割程度に過ぎないアニメ映画がその半分を稼ぎ出しているのが実態だ。果たして、実写との明暗を分けたものは何か。

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