寝たきり老人を激減させた「奇跡の村」 102歳医師が明かす「死ぬまで元気」の秘訣

ドクター新潮 ライフ

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 高知県にある、3人に1人が高齢者の町で寝たきり老人を激減させた疋田善平(ひきたよしひら)医師。数多くの住民の健康を見守り、地域医療の世界に金字塔を打ち立てた老医師は、自らも100歳を超えてなお元気である。その秘訣(ひけつ)に、ノンフィクション作家の奥野修司氏が迫る。

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「病気というのは格好だけ見てもわからんな。隠れている本当の病気を治さんといかん。これは力のない医者ではできません。あんたはどう思う?」

 こう言うのは、この4月で102歳の誕生日を迎える疋田善平さんだ。自宅の窓には前栽の向こうに杣山(そまやま)がどこまでも広がっていた。ここは高知県の西南部にある黒潮町。この町の名が全国に知れ渡ったのは、南海トラフ大地震が起これば34メートル以上の津波が押し寄せると言われてからだ。疋田さんがこの町にやってきて診療所医師に着任したのは、まだ佐賀町とよばれた50年も前のことである。ここで「満足死」なる思想を提唱し、住民が満足な死を迎えられるように全村病院構想というシステムを一人で作り上げると、やがて住民の医療費が削減でき、国民健康保険料も下がった。その業績が評価されて、保健文化賞や保健医療に貢献した人に贈られる若月賞を受賞した疋田さんは、地域医療の世界に金字塔を打ち立てた医師である。

全部そろっていた歯が抜け落ち…

 疋田さんは三十余年にわたって診療所の医師を務めたが、辞めてからも90歳になるまで住民を診てきた。1日の睡眠が4、5時間というハードな仕事にもかかわらず、これまで重篤な病気をしたことがない。引退後も散歩をかかさず読書三昧の日々を送っていたという。それが100歳を迎える前に、全部そろっていた歯がいきなり抜け落ちて食生活が大きく変わった。食事がやわらかい食べ物だけになると、散歩をしなくなって記憶もあやしくなってきたそうだ。ただ、医療のことはしっかり頭に刻まれているせいか、不用意な問いかけをすると逆に辛辣な質問を返されて、こちらが返答に窮することもたびたびだった。

「歯がないので、今は全部潰したものを食べています。そのせいか、体力が低下しましたね。医食同源といいますが、やっぱり食べることは長生きする一番の秘訣なのだと思います」

 妻の睦美さんが言う。

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