主要選手欠場で揺れる「柔道・全日本選手権」 鈴木桂治・男子代表監督はどう考えているのか

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 4月29日、日本武道館(東京・千代田区)で男子柔道の無差別級日本一を決める伝統の全日本柔道選手権大会が行われ、王子谷剛志(30=旭化成)が決勝で羽賀龍之介(32=同)を破り、4度目の優勝を果たした。王子谷は実力者ではあったもののオリンピック出場には恵まれず、「終わった男だと思っていた。奇跡です」と歓喜の涙を流した。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

試合後、涙を流しながら抱き合う

 王子谷の優勝は6年ぶりの4回目で、鈴木桂治(42=アテネ五輪男子100キロ超級金/男子日本代表監督)と並ぶ記録である。山下泰裕(65=ロサンゼルス五輪男子無差別級金/全日本柔道連盟と日本オリンピック委員会の会長)の9回や、小川直也(55=バルセロナ五輪男子95キロ超級銀)の7回に次ぐ快挙となる。さらに、全日本選手権では最長ブランク後の優勝でもある。

 羽賀との決勝は延長戦にもつれ込み、ともに相手を投げ切れる体力は残っていなかった。互いに決まりそうにない技を掛け合い、双方が指導2を受けたが、左の大外刈や一本背負いなど普段は見せない技を懸命に繰り出した王子谷は、受け身になってしまった羽賀の指導3による反則負けを誘った。天野安喜子主審の手が自分に上がるや、王子谷はぼろぼろと涙を流し、高校、大学、旭化成と1年先輩の羽賀と、畳の上でしばらく抱き合っていた。

 試合後、王子谷は「羽賀先輩はずっと憧れの選手でした。今日は先輩が直前の太田(彪雅)選手(25=旭化成)との延長戦で疲れていたので僕が勝てたけど、逆だったら負けていたでしょう。あんな延長戦を戦った後なのに、それを感じさせない羽賀先輩は凄い」と敬った。抱き合った時は「ありがとうございました」と言ったそうだ。

 2度目の優勝を狙い敗れた羽賀は「(王子谷の)片手の攻めに思ったより力があった。全日本の優勝候補と言われなくなったら引退です」などと語った。

生まれる子供と妻の言葉で奮起

 王子谷の今大会の奮起の陰には、3年前に結婚した衣織さんと6月に誕生予定の待望の第一子の存在があった。

「東海大学で練習していても限界があり、強豪が集まる旭化成のある延岡(宮崎県)に移った。妻も初めての地だけど、快く付いて来てくれた。東京代表からは外れてしまうが、九州から代表になれた。全日本の畳に上がって勝つには、やり方がある。生まれてくる子どもには、(今回の全日本での)柔道が見せられるわけじゃないけど、妻にはもう一度カッコいいところを見せたかった」と嬉しそうな顔をした。引退を考えた時期もあったが、衣織さんから「視野を広げて(多くの人の意見を)聞いてみたら」と言われ、現役続行を決めたことにも感謝した。

 準決勝で王子谷に敗れた田嶋剛希(25=パーク24)も大会を盛り上げた。172センチ、90キロながら、巨漢相手に奮戦。2回戦では開始24秒に120キロの星野太駆(24=新潟県警)を背負い投げで吹っ飛ばした。準々決勝では東京五輪代表の原沢久喜(30=長府工産)も破ったが、準決勝で王子谷と当たり、力尽きて破れた。元来、小兵をあしらうのが巧い王子谷。王子谷の圧力にへばってしまった田嶋が大内刈りに来たところを逃さずに浴びせて仕留めた。

 田嶋は「最後にまともに行き過ぎてしまった。悔しい」と話していた。王子谷は「圧力をかけて相手が嫌がって無理な技に来たところを潰すのが僕の柔道。あの大内刈りはわかっていた」と、さすがはベテランの余裕のある発言だった。

 王子谷は五輪予選に繋がるここ一番の試合で力を出せず、リオデジャネイロ五輪と東京五輪の代表には選ばれなかった。引退も考えたが、悔しさを噛みしめながらも柔道を続けるうち三十路に届いていた。全日本柔道連盟の金野潤強化委員長(56)は「王子谷選手は最近、柔道を楽しんで取り組み、見せることができるようになった印象」と話した。

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