「振り切った勧善懲悪」に拍手! 復讐に共感しまくる韓国ドラマ「ザ・グローリー」

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 日本のドラマに足りないのは「振り切る」こと。海外ドラマを観るたびに痛感する。振り切るとは、残酷さや胸糞悪さ、えげつなさも物語に不可欠な要素として描き切ること。悪役がとことん悪く演じること。ハレーションが起き、批判必至と想定できてもちゅうちょしないこと。だからこそヒットするし、記憶に残る。ある意味、優しさと配慮が流行&横行する日本とは真逆だね。

 この1週間、私が夢中で一気見したのは「ザ・グローリー~輝かしき復讐~」。高校時代に凄惨な暴行を受けた女性が、十数年かけて加害者たちに復讐する物語。ネット記事によれば、監督の過去の過ちが暴露されて、謝罪したらしいが、とにかく役者も作品も振り切っていたことを評価したくてね。

 主人公のムン・ドンウン(演じたのはソン・ヘギョ、高校生時代はチョン・ジソ)。金持ちの同級生グループから殴る・蹴るどころか、ヘアアイロンを全身に押し付けられる暴行を受ける毎日。異変に気付いてくれた養護教諭にひとすじの光を見いだすも、加害者は親の金の力で養護教諭を退職させる。ドンウンは絶望し、退学届で被害を訴えるも、担任教師や母親までもがもみ消しに加担。そう、ドンウンの不遇は貧しさだけではなく、母が筋金入りのクズでもあるところだ。加害者の親から示談金を提示され、暴行をなかったことにされる。高校も借りていた部屋も追われ、孤立無援のドンウンはキンパ屋や工場で朝から晩まで働き、血のにじむような努力で勉強して、大学へ。加害者5人を社会的に抹殺すべく、長期復讐計画を実行していく(建築家志望だったせいか、ドンウンの設計図は緻密で完璧だ)。

 加害者の主犯格はパク・ヨンジン(口元の演技が絶品のイム・ジヨン)。親は、家族の不祥事をもみ消すのがデフォルトの悪しき富裕層。同じく金持ちの息子チョン・ジェジュン(長い襟足が気になるパク・ソンフン)も、教祖の娘イ・サラ(キム・ヒアラ)も貧しい人を見下す傲慢の権化。この三人の取り巻きが粗暴なソン・ミョンオ(キム・ゴンウ)と、上昇志向が強いチェ・ヘジョン(チャ・ジュヨン)。虐げられているふたりに忸怩たる思いはあるが、加害者であることに変わりはない。

 悪しき富裕層が弱く貧しき者を苦しめる構図。中途半端な表現で濁さず、悪役は嫌悪と憎悪の対象に徹し、特権階級扱いの宗教の問題も絡めて、成敗に導いた振り切り感に胸がすいた。「悪役にも実は事情が……」などのエクスキューズは一切なし。復讐に共感と説得力しかない。たぶんヒットの背景には悪しき富裕層へのモヤモヤもあると思う。米国ではTのつく人、日本ではAのつく人など、モデルがパッと思い浮かぶしね。

 ドンウンの復讐劇には次第に味方がつく。DV夫に苦しむ・おばさん・ことカン・ヒョンナム(ヨム・ヘラン)、父を殺された医師チュ・ヨジョン(イ・ドヒョン)、そしてヨンジンの夫(チョン・ソンイル)も。ドンウンの復讐に彼らの復讐も折り重なっていく展開で、容赦なく完成度の高い勧善懲悪。観終えて思わず拍手したわ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年4月20日号掲載

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