独自のICTサービスで建築現場を変える――平野耕太郎(日立建機執行役会長CEO)【佐藤優の頂上対決】

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販売台数から稼働台数へ

佐藤 昨年は日立製作所が、保有していた日立建機の株式の半分を売却しました。

平野 日立製作所の所有する株式は51%から25%になりました。ただ私どもはいままで通り日立の看板を掲げますし、さまざまな技術を一緒に開発していくことに変わりはありません。コンサイトも、日立グループが手掛けるIoT基盤「ルマーダ」と連携していきます。

佐藤 では、なぜ親子関係を解消することになったのですか。

平野 米州で独自展開するには多額の資金が必要になります。部品倉庫を建てなければなりませんし、代理店販売網やシステムも作らなくてはならない。また南米でマイニング事業を拡大するにあたっても、サポート拠点を作るなど投資が必要です。

佐藤 やはり資金調達については、親会社にお伺いを立てなければならないわけですね。

平野 そうすると時間が掛かるのです。われわれとしてはクイックにやりたい。資本政策としても、私どもは在庫やレンタル機械などの運転資本を抱えていてバランスシートが重くなりがちです。それが日立製作所の方向性と違っていたこともあります。

佐藤 売却された株式は、日本産業パートナーズ(JIP)と伊藤忠商事が取得しました。

平野 JIPさんには、弊社が米州の事業を独自展開すれば、非常に大きな企業価値増大につながると評価していただきました。また伊藤忠さんには、当社が北米というまっさらなホワイトボードへ一緒に絵を描いていくことに魅力を感じていただいた。彼らも北米で建機の販売会社を展開し、ノウハウもお持ちです。すでにファイナンス面ではサポートいただいており、今後は物流を一緒にやれないかという話も出ています。

佐藤 ディア社との提携解消と日立製作所からの独立は密接な関係があったのですね。

平野 バラバラに進んできましたが、私の頭の中ではずっと一つでした。それがたまたま昨年、一緒に実現したということです。

佐藤 「第二の創業」という言葉にふさわしいお仕事でしたね。いま年間の売り上げはどのくらいですか。

平野 21年度は1兆250億円でしたが、今年度は2千億円ほど伸びそうです。国内が2割、海外が8割です。先にもお話ししましたが、いま全世界で約30万台が動いています。これを早く40万台にしようと考えています。ただそれは新車を売ることだけで達成しようとしているわけではないんです。

佐藤 どういうことですか。

平野 建設機械の寿命はだいたい10年ほどです。これを15年にすれば稼働台数は増えますよね。

佐藤 なるほど、そこもコンサイトによるメンテナンスがモノを言うわけですね。

平野 はい。私どもは「プレミアム・ユーズド」と言っていますが、数年使った機械を買い取り、修理して寿命を延ばし市場に出すことも行っています。機械の寿命が10年から15年になれば、お客様も喜びますし、私どももサービス期間が延びて利益になる。そして環境にも優しい。

佐藤 サーキュラーエコノミー(循環経済)ですね。

平野 20~30年前は販売台数やシェアが大きな目標になっていました。でもいまは違います。稼働している台数全体で考える。もちろん新車も販売しますが、稼働中の機械が壊れる前にメンテナンスし、壊れたら直し、中古車やレンタルも組み合わせながら機械のライフタイムを延ばしていく。

佐藤 販売台数から稼働台数ベースになったのは、いつごろからですか。

平野 ここ4~5年です。機械のトラッキング(追跡)ができるようになりましたから、ただ作っているだけではもったいない。今後はバリューチェーン事業全体で会社を成長させて、サーキュラーエコノミーにも貢献していきたいと考えています。

平野耕太郎(ひらのこうたろう) 日立建機執行役会長CEO
1958年東京生まれ。中央大学法学部卒。81年日立建機入社。土浦工場技術課を皮切りに米国や中国駐在、生産部門、経営企画部門、広報部門など幅広い部署を経験し、2013年に生産・調達本部副部長。14年執行役、16年執行役常務、事業管理本部長を経て17年より社長、19年より社長兼CEO。23年4月より会長兼CEO。

週刊新潮 2023年4月13日号掲載

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