「日の丸半導体」復活を懸け「2ナノ」量産に挑む――東哲郎(ラピダス株式会社取締役会長)【佐藤優の頂上対決】

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 半導体を巡って熾烈(しれつ)な競争が世界各地で繰り広げられている。かつて日本は50%のシェアを誇り世界トップだったが、現在は10%を切るまでに落ち込んだ。ラピダスはそこに突如として現れた国策企業だ。IBMと提携し世界最先端の半導体を量産するという。果たして日本復活の日は来るのか。

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佐藤 昨年8月に設立されたラピダスは、「日の丸半導体」復活を懸けた国家的大プロジェクトです。2027年までに最先端の半導体を開発・量産することを掲げていますが、2月末、その工場を北海道千歳市に造ると発表されました。いよいよ動き始めましたね。

 北海道には半導体製造に欠かせない水が豊富にあります。また10年、20年といったスパンで考えると広大な敷地が必要なんですね。だいたい100ヘクタールくらいを考えていましたから、1カ所で確保できる場所は限られていました。

佐藤 さまざまな地域から誘致があったのではないですか。

 もちろん各地から話がありました。ただ私どもとしては既存の半導体工場がある場所には行かない方がいいと考えていたのです。例えば、九州なら熊本県に台湾の半導体メーカーTSMCが工場を造っていますし、東北なら岩手県にキオクシアの工場があります。人材の確保や工場の建設という点からも場所が重ならない方がいい。

佐藤 北海道は海外からたくさん観光客が訪れていますし、世界的にも知名度が高い場所です。

 そうですね。東京に住む人からは遠いところだと思われるかもしれませんが、海外では人気で、北海道を選んで訪れる人も多い。その大自然に囲まれた場所で、研究、開発、人材育成をしていきます。

佐藤 千歳近辺なら、雪もたいしたことはありません。ただ半導体製造にとって、寒さは大丈夫なのですか。

 寒さはむしろ好都合です。暑いより寒い方がいい。

佐藤 北海道からは、熱烈なラブコールがあったようですね。千歳に決まって、鈴木直道知事は「過去最大の投資案件だ」と発言されています。5兆円規模ということですから、北海道にとっても「屯田兵」入植以来の大プロジェクトになる。

 北海道からも千歳市からも全面的な支援をいただいています。いま道庁にはラピダスを支援する専門のチームがある。たいへんありがたいことです。

佐藤 この千歳の工場で製造する最先端の半導体とは、どんなものなのですか。

 半導体は回路の線幅が狭いほど処理能力が高いのですが、ここでは演算に使われる、2ナノ(1ナノメートルは10億分の1メートル)のロジック半導体を量産します。これは世界初になります。

佐藤 つまり2ナノが世界の最先端だということですね。

 TSMCや韓国のサムスンが3ナノの半導体の量産化に成功していますが、まだ2ナノの半導体の量産はできていません。

佐藤 現在の日本では、どのくらいの線幅の半導体を作っているのですか。

 40ナノです。だから桁が違います。ちなみにTSMCが熊本県に作っている工場は、12~28ナノの半導体です。

佐藤 それがいきなり2ナノですか。どうしてそれが可能になったのでしょう?

 当然、日本の技術だけでは難しいんですね。私どもはアメリカのIBMと長期戦略パートナーシップを結んで作ります。2ナノ半導体自体の開発はIBMの技術によるものなんです。

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