プーチンはほくそ笑んでいる…欧米の金融不安が続けば、ウクライナ問題にも大きな影響が

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「AT1債の価値はゼロになる」

 銀行の自己資本の充実に大きく寄与してきたAT1債と呼ばれる特別な債券に厳しい目が注がれるようになってしまったからだ。

 AT1債は銀行の財務が悪化した際に保有者が損失を引き受ける債券だ。自己資本として算入できるため、多くの銀行が発行し、高い利回りが得られることから投資家がこぞって購入してきた。米金融大手ラザードによれば、2020年9月末時点で約100の銀行が発行し、全体の8割を欧州勢が占める。発行残高は約30兆円と推計されている。

 だが、クレディ・スイスは19日「自社の約2兆2000億円分のAT1債の価値はゼロになる」と発表した。今回の契約に「国からの支援があった場合、AT1債は元本割れになる」という趣旨の条項が入っていたことが災いした(3月21日付日本経済新聞)。

 魅力的だと思われてきたAT1債が無価値になったことで市場に衝撃が走った。

 クレディ・スイスを買収したのにもかかわらず、UBSの株価は急落した。欧州銀行の中で自己資本に占めるAT1債の比率が最も高い(28%相当)ことが嫌気された形だ(3月22日付ブルームバーグ)。

 UBSの経営破綻のリスク度を示すCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)も上昇しているが、それを上回るペースで高騰しているのがドイツ銀行のCDSだ(3月21日付ZeroHedge)。欧州有数の規模を誇るドイツ銀行にもクレディ・スイスと同様、経営不安の影が見え隠れしており、今後の動向に要注意だ。

「制裁のおかげでロシアの金融システムは健全」

 預金、資本という資金調達の面で問題が生じていることに加え、銀行の運用先についても懸念の声が上がっている

 インフレ抑制のために世界の主要な中央銀行が急速な利上げを行った影響で、昨年の世界の不動産投資額は前年比19%減となり(3月15日付日本経済新聞)、多くの国々で不動産市場が揺らぎ始めている。欧米の銀行による商業用不動産融資の焦げ付きリスクが既に顕在化している(3月22日付日本経済新聞)。

 格付けの低い企業への融資(レバレジッド・ローン)なども今後問題になる可能性が高く、銀行不安を払拭する取り組みは前途遼遠と言わざるを得ない。

 欧米の金融市場が動揺を見せる中、ロシアのプーチン大統領は「西側諸国の制裁のおかげでロシアの金融システムは健全だ」とうそぶいた(3月17日付ZeroHedge)。

 金融不安により自国の経済が深刻な状態になれば、欧米諸国で広がる「ウクライナ支援疲れ」の動きがさらに加速することは間違いない。

 このように、欧米の銀行不安は、ウクライナ戦争を始め今後の国際情勢に大きな影響を及ぼすことになるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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