還暦を越えて保育士に、漁師やタクシー運転手も 元プロ野球選手が語る“意外過ぎる”第二の人生に迫る

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ファンからの“貸切予約”

 野球ファンの乗客との会話も楽しい。ペイペイドームに送り届けた人に気付かれて「きょうはレアな車に乗せてもろた」と驚かれたり、一緒に写真を撮ってくださいと言われ、「ツイッターに上げてもよかですか?」と聞かれたり。

「僕の近況を知る阪神ファンのご夫婦から、“今度福岡に行くから、1日貸切で観光案内して”という予約をいただいたこともあります。太宰府やペイペイドームなどを回りました。ただ観光地より野球の裏話を聞きたいみたい(笑)。帰りに阪神時代の僕の写真にサインがほしいと言われました」

 昨年は、たまたま夫婦で歩くソフトバンクの藤本博史監督を見かけた。「博史!」と声をかけると、「ガンさん(岩切の愛称)、ちょうどよかった」と言われて自宅まで送った。

「1年目やけん、苦労している感じだったですよ」

 岩切はハンドルを握りながら、ドライバーを引退した後のことも頭の片隅で少し考えている。

「スポーツバーみたいな店を開いて、プロ野球中継を見ながら、打者心理とか作戦とかをお客さんに解説したら面白いかなって。お客さん、来るかな(笑)」

プライドを捨てることがプライド

 プロ野球選手の第二の人生を2回にわたって見てきた。プライドが邪魔するケースが少なくないことがわかったが、正田が示唆に富む話をしていた。

「プライドを捨てることが、自分に対する本当のプライドだと思います。お金も大事だけど、もっと大切なのは、自分がいま力いっぱいエネルギーを注げているものがあるかどうか。貯金があってもぐうたらしていたら、面白くない人生ですよ」

〈財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すを上とする〉これは知将・野村克也が座右の銘とした政治家・後藤新平の言葉だが、登場した元選手らはそれぞれに人を遺そうとしている。

(敬称略)

西所正道(にしどころまさみち)
ノンフィクション・ライター。1961年奈良県生まれ。京都外国語大学卒業。著書に『東京五輪の残像』『「上海東亜同文書院」風雲録』『絵描き 中島潔 地獄絵1000日』など。

週刊新潮 2023年3月9日号掲載

特別読物「保育士、タクシー運転手、漁師まで 続・プロ野球選手『第2の人生いろいろ』」より

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