「開成・灘高」よりも「ハロウ校・ラグビー校」に行かせるべき?――「名門パブリック・スクール」のすごい授業内容

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 3月10日、東京大学の合格発表が行われた。高校別合格者数ランキングでは、今年も開成高校や灘高校などの名門進学校が上位を占めていることだろう。

 しかし、そんな名門進学校とは別次元のエリート教育を掲げるライバルが現れた。イギリスの名門パブリック・スクールの日本校である。「ザ・ナイン」と呼ばれるトップ9校のひとつであるハロウ校が昨年岩手県で開校、同じくラグビー校が今年8月下旬に千葉県に開校する。
 
 300年にわたり名門貴族の子弟を教育してきたというパブリック・スクールでは、一体どのような授業が行われているのか。イギリス史を専門とする君塚直隆さんの新刊『貴族とは何か――ノブレス・オブリージュの光と影』(新潮選書)から一部を再編集してお届けしよう。

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 18~19世紀のイギリス貴族の精神的な成長を支えたのが教育である。17世紀以前の貴族たちは、幼少時から自宅に家庭教師を雇い、今日でいう高校生ぐらいまでは自宅で教育を施し、大学だけ外に行かせる場合が多かった。

 すでに15世紀から創設されていたイートン校をはじめ、ウェストミンスタ、ウィンチェスタ、ハロウなどのいわゆる「パブリック・スクール」と呼ばれる高級私立学校で全寮制の生活を送る貴族の子弟もいたが、1700年の時点ではいまだ16%程度にすぎなかった。

 それが1740年代以降には、パブリック・スクールに通う貴族の子弟は72%を超え、20世紀にはほとんどすべての貴族の子弟がいずれかの名門パブリック・スクールから、オクスフォードかケンブリッジ両大学、あるいは陸軍士官学校や海軍兵学校などに進学するという状況になっていった。これは大陸には見られないイギリス貴族に独特のスタイルとなった。

 19世紀には名門ラグビー校の校長として名を馳せたトマス・アーノルド(1795~1842)が登場するが、彼が重視したのが古典語の教育であった。すなわちヨーロッパ文明の源流ともいうべき、ギリシャ語でありラテン語である。アーノルドは古典がすべての教育の基盤であり、「若い時に人間の精神を形成するという、まさにその目的のために与えられているかのように私には思われる」と述べている。

 パブリック・スクール各校は一様に、ギリシャ語の原典でプラトンやアリストテレスらの書物を、ラテン語でキケロらの著作を生徒に読ませるとともに、彼らが残した思想や名言も学ばせた。「貴族政治(アリストクラシー)」に関する彼らの見解や、「徳とは何か」についても、貴族の子弟らはギリシャ語やラテン語を駆使して必死に理解しようとしたに違いない。1884年の段階でも、イートン校では古典語の教員が28名もいたのに、数学の教員は6名で、科学の教員はなんとゼロだった。

 20世紀も近づこうとする頃に、近代的な科学ではなく、古典語を重視する姿勢は時代遅れという一面もあったかもしれない。しかし、貴族をはじめとするエリート階級にとっては、将来人々の上に立つために、むしろこうした古典の叡智を幼少時から身体に染みこませていくほうが大切だと考えられたのであろう。

※君塚直隆『貴族とは何か――ノブレス・オブリージュの光と影』(新潮選書)から一部を再編集。

デイリー新潮編集部

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