日の丸半導体の復活なるか 新しい資本主義を構築する鍵は「経済安保」

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 最先端半導体の国内生産を目指すラピダスは2月28日、北海道千歳市で同社として初の工場を建設すると発表した。スーパーコンピューターなどに使われる「2ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)」レベルの半導体の試作を2025年にも開始する予定だ。

 ラピダスは昨年8月、トヨタ自動車やNTTなど国内主要企業8社が出資して設立された。政府も700億円助成しており、官民挙げて日の丸半導体の復活を目指している。

 同社の研究開発から量産までに必要な投資額は5兆円規模となる大型事業だ。

 複数の自治体が誘致に動く中で北海道を選んだ決め手は、生産に欠かせない水資源の確保に加え、空港や高速道路が整備されているなどのアクセスの良さ、再生可能エネルギーなどが豊富な点だった。

 鈴木直道・北海道知事は「(1次産業への依存が高い)北海道にとって最大の企業誘致であり、これまでにない規模の経済効果が生まれる」と期待に胸を膨らませている。

 半導体が地域経済の起爆剤となっている先行例は熊本県だ。

 半導体受託生産の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)は2021年、1兆円規模の工場を熊本県菊陽町に建設することを決定した。

 熊本県に半導体関連企業が集積していたことが功を奏した形だ。

 TSMCの投資による地域への経済波及効果はとてつもなく大きい。今後10年で4兆3000億円に上るとの試算がある。

経済安全保障

 全国的に見ても半導体が地域経済の牽引役になりつつある(2月18日付日本経済新聞)。2021年度の全国の実質国内総生産(GDP)が2019年度に比べて98%の水準にとどまったのに対し、半導体関連産業が集積する三重、山梨、熊本など8県でGDPが2019年度の水準を上回った。

「半導体で新たな企業城下町が形成される」という注目すべき動きの背景には、経済安全保障の観点から世界的なサプライチェーン(供給網)の見直しが進み、国内生産の重要性が高まっていることがある。

 経済安全保障とは経済的手段によって安全保障の実現を目指すという考え方だ。

 昨年5月に経済安全保障推進法が成立したが、日本で経済安全保障の優先度が急速に高まったのは、米国や中国がそれぞれの経済安全保障政策を掲げて覇権競争に突入したことが大きく関係している。

 米国は知的財産の海外流出を防ぐ「重要・新興技術国家戦略」を2020年に策定し、国内への半導体の工場・設備を導入することを支援するために「2021年度国防授権法」を制定した(1件当たり最大3000億円の補助金を支給)。

 中国も2015年に策定された「中国製造2025」で半導体の内製化を進める計画を示し(半導体関連技術に5兆円超の大規模投資を実施)、2020年に国の安全と利益を守るための「輸出管理法」を制定した。

 EUも2030年に向けたデジタル戦略を発表している。

 日本政府も負けじとばかりに「経済安全保障を追い風に日本全域に半導体の生産基盤を作りたい」と意気軒昂だ。

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