「球速には興味がない」 中3の頃のダルビッシュ有が語った投手論(小林信也)

  • ブックマーク

Advertisement

薬指と小指

 ダルビッシュはいま日本の投手たちにとって大切な指南役になっている。どんなコーチより実践的で有益な技術論や練習法を教えてくれる。かつて名選手たちは「現役中はみなライバルだから何も教えない」と考えるタイプが多かった。ダルビッシュは違う。

 その中でも特筆すべき助言のひとつが「ボールの握り」だ。ダルビッシュが書いた一節にハッと息をのんだ。ボールの握りなど、誰もが知っていそうだが、縫い目に指をどうかけるとか指先に力を入れすぎないとか、その程度の表現ばかりだ。唯一ダルビッシュが、著書『変化球バイブル』のカットボールの項目で、

〈ボールを離す直前に、曲げている薬指、小指に同時にピュッと力を入れてみてください。そうするとその2本の指に連動して自然と中指が反応するでしょう?〉

 と書いている。ボールをつかんでいない指の使い方を指摘する指導は野球界では聞いたことがない。それは私が武術の師に教えてもらった「握りの本質」に近かった。ダルビッシュは試行錯誤の過程でその領域に近づいたのかもしれない。

 昨季、36歳でMLB初年度(2012年)以来10年ぶりに16勝をマーク。先日、42歳になる28年も年俸18億円を超える契約をパドレスと結んだ。筋力に頼らない、投球技術を信頼されての高評価だろう。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2023年3月2日号掲載

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。