ドラマ「罠の戦争」は自民党への皮肉なオマージュか 政界の闇をリアルに表現する役者陣に注目

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 失言というか暴言、口利きというか収賄、隠蔽(いんぺい)というか隠滅。永田町に蔓延(はびこ)る悪行三昧を「中の人」である秘書が暴く。愛する息子を突き落とした犯人と、それを隠蔽する黒幕に復讐を誓って。草なぎ剛が久々に帰ってきた戦争シリーズ第3弾「罠の戦争」。ここまでくると、自民党パロディーというか皮肉なオマージュか。

 草なぎ演じる鷲津は、政治家としての資質も能力も欠如している割に内閣府特命担当大臣に就任しちゃった犬飼(本田博太郎)の敏腕第1秘書だ。その昔、父が過労死して困窮したとき、犬飼に助けてもらった恩義がある。ところが息子の被害を転落事故で済ませるよう圧力をかけてきた犬飼に、ブチ切れて復讐を誓うことに。犬飼の裏帳簿を握る政策秘書で居丈高な虻川(田口浩正)、犬飼のビジュアル系馬鹿息子(玉城裕規)らを次々と罠にはめ、永田町から追い出すことに成功。ここまでが前半である。

 博太郎の安定したクズ大臣っぷり、この手の輩は自民党に多いよね。「警視庁・捜査一課長」のトリッキーな笹川刑事部長役も楽しそうだが、本来悪役顔なのよねと改めて思う。さらに、復讐されたときのほうけた顔が最高の田口も、悪役が似合うなぁと再確認した次第。

 味方となるのは、同じ秘書の蛍原(小野花梨)、犬飼に恨みを抱く秘書見習いの蛯沢(杉野遥亮)の若手だ。あ、一応、第2秘書の貝沼(坂口涼太郎)も入れとこう。外部協力者としては週刊誌記者の熊谷(宮澤エマ)も。

 さて、本当の黒幕は永田町中枢部の伏魔殿に、というのが後半。竜崎総理大臣(高橋克典)、与党の鶴巻幹事長(岸部一徳)と、いかにも悪事を隠蔽して、弱い者を平気で踏み潰しそうな人々も。一見、味方に見えるのは鴨井厚労大臣(片平なぎさ)や、鷲津の元同僚で2世議員の鷹野(小澤征悦)だが、政界の闇はそう単純ではないと思わせる、含みのある面々。

 鷲、犬、虻、蛍、蛯、貝、熊に竜、鶴、鴨、鷹……罠だけに皆、名字にいきものの名がついていて、議員会館の職員も小鹿(こしか)さん(水川かたまり)という徹底ぶり。他にも、猫・猿・牛・蟹・鰐・鮫もいるので、永田町いきもの図鑑だね。こうなったらもう動物名で書く。

 鷲は首尾よく犬や虻を追い払い、衆院選に立候補。嫌がらせを受けつつも、見事当選。快進撃の復讐に一点の曇りが見えたのは、蛯の恨みの矛先が鷲に向かう可能性もあるからだ。蛯の亡くなった兄(森田甘路)の必死の陳情に対応したのは、犬ではなく鷲だったとわかる。「善処します」とテイよく追い払う常套手段、鷲の責任が問われるかどうか。ややヒリつく展開に期待。

 そういえば、総理大臣だけが竜。想像上のいきもの。現首相のように虚ろな存在を揶揄しているのかしら? そのうち鵺(ぬえ)とか件(くだん)とか鬼とか猩々(しょうじょう)とか出てくるかな。

 息子は意識不明の重体だが、賢くて美しくて気働きのできる妻(井川遥)もいる鷲。根回しと機転で政界へ飛びこむが、鶴をはじめとする邪(よこしま)ないきものたちが、行く手を阻む模様。復讐劇に必須の裏切りや挫折も、そろそろ欲しいところだね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年3月2日号掲載

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