中国人女性が沖縄の無人島の「オーナー」に 無防備すぎる現状を外務省は変える気ナシ

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 沖縄の無人島、屋那覇島の土地の51%を中国人女性が購入したことが判明し、波紋を呼んでいる。もちろんどの国の人が土地の保有者となっても、日本の領土であることは変わらない。また、購入自体も違法ではない。

 とはいえ、領土的野心を隠そうとしない中国の国籍を持つ人物が、沖縄の離島を実質的に占有するような状況には、安全保障上の問題があるという指摘が出るのは当然のことだろう。

 これに対して岸田内閣の松野官房長官は、次のように会見で述べている。

「屋那覇島については、領海基線を有する国境離島、または有人国境離島地域離島に該当するものでなく、本法(重要土地等調査法)の対象とはなりません。

 重要土地等調査法においては、法に基づき、国境離島および有人国境離島地域離島について、まずは区域を指定したうえで、区域内にある土地建物の所有、利用状況などについて調査を行い、実態把握を進めるなど、この法律の執行を着実に図っていく考えであります。

 政府としては、関連動向について注視していきます」

 昨年9月に新たに施行された重要土地等調査法では、防衛施設や原発などの重要インフラ、国境に近い離島のような安全保障上重要な地域を「注視区域」に指定、大きな構造物や電波妨害などがあれば、所有者に利用の中止を命じることができる。司令部の近くなど特に重要な「特別注視区域」であれば、事前に売買の届出をしなくてはならない。

 しかし、この島はいずれにも該当しない。大ざっぱにいえば、「この島の所有者が誰であれ、現状の法律では事前に調査をするなどはできない。関連の動向については注視する」ということだろうか。

 安全保障環境を考えれば、外国人による土地売買そのものを規制できるよう法改正をすればいいのでは、とは誰もが思うところだが、いまだ区域の指定にとどまっているのは、想像以上にその作業が大変だという事情もあるようだ。

 中国に限らず外国資本が簡単に日本国内の土地を購入できる点については、以前から問題が指摘されてきた。日本は法律などの規制が甘すぎるがゆえに、国土の持ち主が見えなくなってきてもいる。今回のように所有者が明確なのはまだいいほうで、実質的な所有者が不明なものも珍しくないという。

 森林や水資源、国境周辺の離島など中国の「静かなる侵略」に対して、早くから警鐘を鳴らし続けてきた姫路大学特任教授の平野秀樹氏は、2019年に刊行した著書『日本はすでに侵略されている』の中で、世界的に見ても甘い「日本ルール」の問題点と改正が進まない理由を解説している。あらためてその箇所を見てみよう(以下、同書をもとに再構成しました)。

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日本はノーガード

 日本の土地がここ10年でじわじわと外国化しているのですが、海で四方を囲まれた島国日本にとって初めてのことです。それゆえその先がどう変わっていくのか考え及びません。しかし、買われた土地はまず戻って来ないでしょう。筆者は買い戻せたという事例を聞いたことがありません。

 こうした傾向に拍車をかけているのは、世界標準でみて日本の国土にまだまだ割安感があるからです。北海道ニセコをはじめ、白馬や博多、沖縄も国境離島も、例外なく価値があると見られています。港湾と道路、上下水道、ガス電気については、日本ほど高いレベルで整備された国は周辺にはありません。樺太、済州島、台湾、フィリピン・ルソン島などと比べても、クオリティの高いインフラが揃っています。北海道から沖縄まで、これまで何兆円もの血税で公共インフラへの投資が続けられてきていますが、それらのすべてを占有できるならば、他国からすれば、間違いなくお買い得なのです。

 人気の理由はまだあります。日本の土地が国際金融商品となり得る点です。その売買が国内外問わずオールフリーなのです。唯一、農業委員会の許可が必要だった農地も、2016年以降は解かれ、参入障壁はなくなりました。

 土地の利用についても相当自由です。ドイツのような肩苦しさはなく、少々違反しても反省文一枚で許されるケースが少なくありません。お金さえあれば、合法的かつ無制限に、秘匿したまま買収し、利用できるのです。〈列島全島買収〉は、経済的にも妥当な侵略行為かもしれません。

 もちろん、諸外国ではこうはいきません。世界的にみて日本ルールはかなりレアです。たいていの国は島嶼(とうしょ)地域や国境域の外国人・外国法人による買収を制限しています。国家として、〈買われてしまうと国益を損なうモノ〉や〈買い戻せないモノ〉は売ってはならないという視点が徹底されています。

 例えば太平洋のツバル、パラオでは本国人以外の者への土地の売買は禁止。中米のコスタリカは満潮海岸線から200メートル以内の外国人の土地所有は禁止しています。ニュージーランドの離島も0.4ヘクタールを超える外国人の土地所有は許可制です。

 中国、インドネシア、フィリピンでは、そもそも外国人の土地所有は認められていません。インド、シンガポール、マレーシアも制限付きで、韓国も外国人土地法によって島嶼地域等の海岸部は、許可がなければ土地売買できないことにしています。

 アメリカはハワイ、アラスカなど4割の州で規制しているほか、外国投資・国家安全保障法(FINSA)による審査手続きが実質的なストッパーになっています。

 スイスに至ってはコラー法(連邦法)に、土地の「過剰外国化」を阻止すると明記されていて、無許可の取引は無効で登記不可。届出違反の土地は没収としています。

 2017年以降、新興大国による一帯一路の攻勢に対し、太平洋周辺諸国のニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、韓国では買収の規制や禁止など、警戒アラームを作動させはじめています。

 ところが、日本だけが依然として、諸手を挙げて歓迎ムードです。地方自治体17道県が用心して、条例によって林地買収の事前届出を義務づけたぐらいです。海外諸国と比べれば日本はノーガードである上、近年の世界潮流に唯一、逆走しつづけているのです。

外務省にやる気はない

 次に、国際条約の問題を引きずっています。

 その代表的なものがGATS(サービスの貿易に関する一般協定)というWTO(世界貿易機関)ルールで、160を超える国と地域を相手に1994年に日本国として条約を締結しています。この条約で、日本は「外国人等による土地取引」について、何ら制限をつけず、自由売買原則とすることを国として認めました。国籍を理由とした差別的な規制をやめると世界各国に向けて約束したわけです。

「そうは言っても周辺環境と状況が変わった以上、国としての方針も変えるべき」だという規制論者は当然出てきます。心情的には筆者もそうでした。しかし、いざこのルールを変えようとしたら容易ではないのです。

 まずGATSの協定内容を変更するため、30近い条約を改正しなくてはなりません。各国との個別交渉では、見返りとしての追加的な自由化分野の提示や多額の補償金などを求められ、併せて日本国内の業界ごとの利害調整も必要になります。実はこれらのプロセスは課題が山積で、気が遠くなるような作業が必要になると思われます。

 別の方法として、〈安全保障上の理由で規制する〉というカードもありますが、それを適用するハードルは高く、戦時下にあるとは言えそうにない日本の現状では使えそうにないようです。

「今さら規制しろといわれても無理」というのが、外務省はじめ政府のコンセンサスで、いわばちゃぶ台をひっくり返すような情熱とエネルギーは残っていないと見られます。

 後戻りできなくなった方針の失敗は今に始まったことではなく、「経済で国を再興して先進国入りできたのだから、それでいいのではないか」という戦後日本の成功体験が背景にあるのかもしれません。安全保障より経済重視ということで、こうした問題に対して、身構えることなくやり過ごし、先送りしてきたツケが回ってきたということでもあるのです。

憲法にも問題が

 そして、国土侵蝕を防げない大元の阻害要因が日本の憲法です。現行の憲法は他国からの侵略に対して、どのように国民の財産を守るか、という発想が欠けているようです。

 戦前の大日本帝国憲法(27条)は、「日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ」と主語が明記され、「日本国民の所有権」に限定していました。

 それが、戦後の日本国憲法(29条)は、「財産権は、これを侵してはならない」とあるだけで、財産権にかかる主語がありません。主語欠落です。

 財産権を保障されるべき主体が規定されていない以上、当事者が外国人や外国法人であっても、差別なく国内の財産権が保護されると考えられます。外国人にとってこれほど心強いことはなく、転売時には欠かせない加点ポイントです。日本の不動産が海外で人気があるのは、こうした背景もあるのです。その結果、日本国においては今日、国家と国民と国土がつながらなくなっているのです。

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 まとめれば、日本の「ノーガード」状態を変えるには、政府や役所が相当なエネルギーを費やす覚悟を示す必要があるということになる。が、それをやる気概以前の問題として危機感すら「注視」連発の政府にはなさそうに見えるのだ。

デイリー新潮編集部

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