会えば彼女に触れたくなる、だがその先は地獄… アラフィフ夫が出した結論をどう理解すべきか

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子どもたちは“いい子”だけれど…

 妻は意地が悪いわけではない、子どもに無理強いしているわけでもなさそうだったと、翔太郎さんは妻を庇う。だが、彼が気になっていたのは、子どもたちが思い切り笑い転げるような姿を見たことがないことだった。

「うちの子は“はしゃぐ”ということがなかった。子どもって、何か楽しかったりうれしかったりすると、急にテンションが上がってきゃあきゃあ叫んだりするじゃないですか。うちはふたりともそういうことがなかったんです。常に圭子の言うことを聞く“いい子”だった。それがちょっと怖いなと思うようになったのは、下が小学校に上がったころだから、5年ほど前か……。気づくのが遅かった」

 それでも翔太郎さんは、「家庭内改革」に必死で取り組んできた。時間があれば子どもたちと話し、週末は外に連れ出した。「子どもらしい子ども」に戻そうとがんばったのだ。学校にも出向いたが、学校側は子どもたちを「とてもいい子」だと言う。それでも翔太郎さんは不安だった。年端もいかないころにさまざまな押しつけをされてきた子どもたちが、このままたくましく育つとは思えなかった。

 現に長男は、感情をストレートに表すことが不得手だったし、長女は人の気持ちに共感するのが苦手だった。

「いい子で何がいけないのかと圭子は言うんです。大人の思ういい子にあてはめるのは、決して子どものためではないと僕は言ったけど、彼女は『わがままな子になるよりずっといいじゃない』って。何かが違うんですよね。子どもたちも目立ってヘンな子ではないけど、何かが違う。家庭の雰囲気も悪いわけじゃないけど、どこか違和感がある。圭子も子どもたちも何か装っているような……」

 そこを打破したいと思っていた翔太郎さんだが、どうにもうまくいかなかった。

圭子さんとは別のタイプの女性

 3年半ほど前、翔太郎さんは職場で異動になった。長年、総務にいたのだが、なぜか突然、営業職になったのだ。異例の人事だったと彼は言うが、根掘り葉掘り聞くと、どうやら彼の実直な勤務態度と誠実さが光り、営業部長が引き抜いたらしい。

「僕は営業に向いているタイプじゃないんですが、その営業部長には新入社員のころ研修でお世話になり、以来、ずっと目をかけてくれていた。家庭のことで相談に乗ってもらったこともありました。『きみも不惑を越えて、思い切って仕事ができる時機がやってきたということだよ』と言われて……。期待されているのがうれしかった」

 帰宅して妻にその話をすると、「ふうん」という気のない返事。喜んでくれないのと尋ねると、「あなたに出世は似合わないし、やっていけるのかなと心配だから」と返された。確かにそうだよなと翔太郎さんは思ったが、たとえやっていけるのかなと思ったとしても、一緒に喜んでくれるのが夫婦ではないのかとがっかりした。すると彼の顔色を読んだ圭子さんは、「共感することだけがいい夫婦じゃないと思う。あなたの性格をわかっているからこそ、私が止めるべきときだと感じたの」と言った。

「ただ、転職するという話ではないし、営業でダメならまた他部署に異動になるだけですから。それなのにそこまで言う必要はないだろうと思いましたね」

 そして異動になってから同僚として一緒に働いたのが、未優さんだ。翔太郎さんよりひとつ下だが、営業職は長い。彼女は一から仕事を教えてくれた。

「あなたはこの会社に長くいるんだから、私よりずっと全体の流れは知っているはず。私は営業のポイントを伝えるだけですからね、と笑っていました。わざと『先輩』なんて言うとケラケラ笑って。表情が豊かで、感情が体からあふれてくるようなタイプ。圭子とは正反対でしたね。何を考えているかすぐわかる。僕自身も、未優には『わかりやすい人』と言われていました。そういえばそうだった、昔から僕はそう言われていたと思い出したんです。結婚生活で、僕はいつしか感情をストレートに出すのがいけないことのように圭子から影響を受けていた。大人の僕でさえ、家ではどこか気持ちを抑えていたんでしょうね」

 一緒に仕事をしていくうち、翔太郎さんは徐々に未優さんに惹かれていった。だが彼女も既婚者、しかも職場でいい年をした既婚者同士が恋愛など許されるはずもない。

「1年ほど一緒に仕事をして、その間、コロナ禍もあってリモートワークになった日々もあって。でもまた出社できるようになったとき、僕は未優に会いたくて会社に行くんだと改めて認識したんですよ。恋心は隠さなくてはならない。でも未優ともう少し個人的に親しくなってもいいのではないか。そんなふうに思うようになりました」

 コロナ禍で友人の親が何人か亡くなった。その時期に大病にかかって命を落とした知人もいる。自分だって未優さんだって、いつどこでどうなるかわからない。そんな焦燥感が彼を襲った。

「ときどき未優を食事に誘うようになりました。彼女も楽しそうだった。家庭の話をしたり、子どものことで相談に乗ってもらったりもしました。未優には包み隠さず話して、僕という人間を知ってほしかった。僕、あんまりそういう感情を抱いたことがないんですが、彼女には知ってもらいたいと痛切に思いました」

 それが「恋」なのかもしれない。彼は相談相手がほしかったわけではない、恋する相手に心の内を見せたかったのだ。

「2年ほど前、思いがあふれて、彼女に『好きだ』と言ってしまいました。自然に口からその言葉がこぼれてきたような流れてきたような、そんな感じだった。彼女は僕をじっと見て、『私も』と言った。そして『でもこの関係を続けましょ』とも」

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