二人合わせて歯が3本の「きんさん・ぎんさん」はなぜ長生きできた? 健康長寿の新常識は「舌が命」

ドクター新潮 ライフ

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舌トレーニング法

 しかし、最後まで衰えが緩やかな舌にも限界があり、75歳を過ぎたあたりから衰え方が速まります。こうした傾向を踏まえた上で、やはり、とりわけ高齢者は舌を鍛える必要があります。

 先ほど記したように舌が筋肉である以上、とにかく口を動かすことが舌の衰え防止につながります。例えば次のような習慣を「舌トレーニング」としてお勧めします。

・ガムをかむ。

・おしゃべりを楽しむ。

・カラオケを歌う。

・上下の歯全体を舌でなめ回すようにして行う「舌ぐるぐる体操」。

 また、くれぐれも無理のない範囲で「食べにくいもの」を食べてみることも有効です。具体的には、よくかまなければならない少し硬めのものを食べるようにする。

 この“食事トレーニング”に関して言うと、もちろん、すでに軟らかい食材しか食べられない状態の人などは誤嚥や窒息のリスクがあるため避けたほうがよいでしょう。

 一方、まだ硬いものを食べられるのに、「楽」をして軟らかいものばかり食べていては舌は衰えるばかりです。肉類や、ごぼうのような硬めの野菜を食べることで舌の力は鍛えられるでしょうし、また白いご飯よりもパラパラのチャーハンのほうが、口の中でまとめにくいのでより活発に舌が動きます。同様の理由から、バリエーションに富んだ食感が混在するチョップドサラダのような多品目サラダも舌の力強化には役立つでしょう。

注目されない事故

 こうした舌トレを最も意識していただきたいのが、お正月の時期です。

 交通事故による年間死亡者数は、実に3536件にも上ります(2021年「人口動態統計」厚生労働省)。無辜の命が突如奪われる痛ましい交通事故は大きく報じられるケースも少なくありません。しかし、その約2.3倍もの死者が出ていながら、注目されていない事故があります。

 窒息事故。

 日頃の健康努力を無にしてしまうこの事故は、すでに紹介した通り、神業を持つ人間ならではのものです。そして、窒息事故のリスクが最大に達するのがお正月です。一年で最も餅を食べる機会が増える時期だからです。

 毎年三が日が明けた1月4日に、「東京消防庁によると、餅をのどに詰まらせて搬送された人数は……」などと報道されます。しかし、交通事故が年中注目されるのに、窒息事故はそれっきりで忘れられがちです。

 餅による窒息事故のリスクを避けるには、餅を食べないことが一番いいわけですが、それを言ったら何も食べられなくなってしまいます。餅に限らず、肉だろうが野菜だろうが、あらゆる食品で窒息事故は起こり得るからです。

 それに、餅は日本人のソウルフードのひとつです。食べるなとは言いにくい。嚥下の力が落ちた高齢者がうちのクリニックに来て、餅には気を付けましょうと言ったところ、「今度の正月は餅食べちゃダメなんですか?」と、家族ともども悲しがられたこともあります。ですから、ダメとは言いません。その代わりに、サイズを小さくするとか、お雑煮に入れるならコトコト煮て、よりかみちぎりやすくするとか、工夫をしてほしいのです。

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