与党側の伊賀、野党側の甲賀という現代忍者の設定に説得力が 「忍者に結婚は難しい」の楽しみ方

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 菜々緒と鈴木伸之が忍者と聞いて「全然忍べないじゃん! ちんちくりんだらけの日本でこのふたりは目立つじゃん!」と思ったが、設定の面白さに膝を打った。「忍者に結婚は難しい」である。同じ原作者のドラマ「ルパンの娘」の魅惑的なすっとこどっこいの世界観も好きだが、こっちはそれなりにさもありなんの説得力が。

 始まりは溝。それぞれが結婚生活への愚痴と不満をたれるのだが、忍者であることをお互いが隠している共通点はある。菜々緒は甲賀、伸之は伊賀の忍者だ。

 夫婦間のけんかの火種はよくある些末なもの。散らかす夫、食べかすをこぼす夫、トイレを尿しぶきで汚す夫、晩飯作ってるのに連絡よこさず外で食べてくる夫、大切にしている文庫本をコースターに使う夫。それを朝から細かく説教する妻、不機嫌がデフォルトの妻、話を聞かない妻、優しくない妻。うーん、夫、分が悪い。

 ブチ切れて離婚届&家出はよくある展開だが、私が感心したというか興味をもったのは伊賀と甲賀の違い。

 伸之は郵便局員。この郵便局は局長(六角慎司)や幼なじみ(勝地涼)ら数名が伊賀忍者という設定。組織を形成しており、集団で動く。政権与党の支持団体というのも妙に説得力がある。現実では宗教というかカルトだが、ここでは忍の者たちが下支えしてるわけだ。有無を言わせぬ上意下達の組織は男ばかり。資金はあり、郵便局を根城にするあたりに権力のニオイ。ちなみに伊賀では離婚はご法度だが不倫はご法度ではないそう。効率悪そうな手裏剣を使う。

 一方、菜々緒は甲賀だけに薬剤師。処方箋薬局では客を装った使者(広瀬アリス)が、屋台ではオヤジ(遠藤憲一)が、符丁とともに指令を伝える。内容はQRコードからってのがいい。ドローンや麻酔針を駆使。

 菜々緒は父(古田新太)が住むアパートの家賃も、飲み屋のツケまでも払っている。馬と金しか信じない姉(ともさかりえ)と薬学部生でインフルエンサーの妹(山本舞香)もいるが、指令は菜々緒に任せっきり。甲賀は野党支持で、与党議員や大臣の醜聞を狙うなどの活動が主軸。背負うモノが大きくて、しかも孤独だ。

 組織で動く武闘派の夫、単独で動く頭脳派の妻。もうこの差だけで、夫婦の精神性の違いが見えてくる。同じ忍でも質が違う。性差ではなく、責任とか覚悟とか自立性とかだよなあと。

 忍者の末裔(まつえい)と聞いて、ある種のロマンを感じる人は、犬も食わない夫婦げんかや現代的な道具に違和感を覚えるかもしれないが、このドラマはラブコメ。もっとお気楽に観ればいいのだ。伸之の初恋の相手で、伊賀流総帥のエリート孫娘(吉谷彩子)も絡んでくる。郵便局に勤め始めたお気楽青年・藤原大祐は忍っぽい気もするが、ただ敏(さと)いだけかもしれず、唯一立ち位置不明。

 そういえば、忍者の収入と福利厚生ってどうなってんのかな。夫妻が住む家が賃貸とはいえ豪邸で、世田谷区だとしたら結構手当がつくのかなとあさましく考えちゃう。無粋だね。忍者という日本古来のほぼファンタジーを素直に楽しもう。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年1月26日号掲載