強豪校・東海大菅生でも…なぜ、高校野球で“体罰”はなくならないのか?

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“軍隊”と呼ばれるチームも

 第95回選抜高校野球の出場校を決める選考委員会が1月27日に行われるが、ここへ来て心配なニュースが飛び込んできた。昨年秋の東京都大会に優勝し、選抜出場が濃厚と見られている東海大菅生の若林弘泰監督が謹慎していることが明らかとなり、その原因が部員への体罰だと報じられたのだ。2019年の選抜大会直前にも、春日部共栄(埼玉)と松山聖陵(愛媛)で、監督による体罰が発覚し、大会には監督が交代して臨む事態となっている。【西尾典文/野球ライター】

 高校野球連盟と大学野球連盟を統括する日本学生野球協会は、毎年不祥事のあった学校や指導者に対して処分を発表しているものの、このような指導者による体罰に関する話題は後を絶たない。

 では、体罰による指導がなくならない原因はどこにあるのだろうか。高校、大学の両方で指導経験のある指導者は、以下のように話す。

「一つは、指導者自身が選手時代に体罰による指導を受けてきたことが大きいと思います。自分がそういう指導で育ってきたので、体罰や暴言が正しいものという認識が少なからずあると思いますね。あと意外に根強いのが、少年野球の現場での指導ですね。高校野球ほど話題になりませんが、日本の少年野球は、いまだに高圧的な指導をしているチームが非常に多い。少年野球で手っ取り早く結果を出すにはその方が楽というのもあると思います。そういう指導に耐えて成功した選手が指導者としても、同じ指導をしてしまう。ただ、いろんな競技の指導者に聞いても、似たようなことは起こっています。高校野球だけでなく、日本のスポーツ界全体の問題という部分があると思いますね」

 高圧的な指導で知られるチームを揶揄して“軍隊”という言葉が使われることもよくある。戦前の日本における体育教育の目的の一つに兵隊を養成することがあったと言われている。また、スポーツに限らず勉強や文化系の部活動でも、高圧的な指導が行われている現場は少なくないという。それを考えると、日本全体の教育の問題とも言えるだろう。

高校野球は2年半しかない

 少し話が大きくなったが、学生野球ならではの問題も確かに存在している。別の高校野球の指導者は、このようにも話してくれた。

「試合をしてみると、よく分かるのですが、表に出ていないだけで、体罰や暴言はまだまだあると思います。公にならない理由の一つとしては、高校野球と大学野球の場合、選手がその学校を辞めて転校すると、1年間は公式戦に出られないことです。特に高校野球は2年半しかないわけですから、1年という期間はものすごく大きい。だったら、辛くても我慢した方がいいと考えてしまうのではないでしょうか。体罰や暴言にかかわらず、チームに合わないというケースもあるわけですから、そういう選手のためにも、もう少し柔軟にルールを見直すことも考えてもらいたいですね」

 高校、大学だけでなく、少年野球でも“引き抜き行為”を防ぐという名目で同じ地区のチームへの移籍を禁止している団体があるという。何があっても入ったチームで最後までやり抜くことを“美徳”とする意識は、野球界にまだまだ根強いと言えそうだ。

 その一方で、確実に変わってきている部分がある。以前は高校野球の現場に取材に行くと、監督やコーチの前では選手が直立不動、何かミスがあると指導者だけでなく、選手からも暴言が飛び交うようなシーンを目にすることも多かった。ただ、ここ数年はめっきり減った印象を受けている。指導者から一方的に指示をするのではなく、選手側から意見を出して、話し合うような機会を見ることが増えている。

 そして、そんな全く高圧的ではない指導で、結果を残したのが、東北高校(宮城)である。近年は、長年ライバル関係にある仙台育英(宮城)に押されることが多かったが、昨年秋は県大会で優勝。続く東北大会でも準優勝を果たして、12年ぶりとなる選抜出場を確実なものとした。

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