「舞いあがれ!」で異彩を放つ古舘寛治 「演技していないように見える演技」の培われ方

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米国ニューヨークで学んだ演技

 やがて、もっと本格的に演劇を学びたくなり、ニューヨークへ。1991年、23歳の時だった。目標は最初から世界水準だったのである。

「英語は苦しんだものの、やっていることがめちゃくちゃ面白かった。演劇が教育として成立しているんです。僕はアメリカに来て初めて『演技とは技術が大切なのだ』と学びました」(『週刊現代』2018年10月27日号)

 生活費はアルバイトで得た。デニーロが経営者の1人だった寿司店で働いたことも。デニーロと会ったこともあるが、硬くなってしまって何も話せなかった。

「あまりの緊張に挨拶すらままならず、我ながらバカだったなあと思います」(前同)

 純情らしい。帰国したのは1997年。29歳の時だった。2001年には平田オリザ氏(60)の主宰する劇団「青年団」に入ったが、顔と名前が広く知られるようになったのは2007年。英会話学校「NOVA」のCMでメインキャラクターに起用されてから。

 そのCMの1つ「上司と部下編」では古館扮する厳格そうな上司が、オフィスでダメな部下を激しく叱る。

「いい加減にしろよ、まったく!」

 だが、2人はNOVAの生徒同士で、退勤後に教室で部下と会った古舘は「アイム・ベリ・ベリ・ソーリ」と平身低頭で詫びる。「NOVAで友人をつくろう」と呼び掛けるCMだった。古舘の英語の発音はもちろん完璧だった。

 その数年前から映画にも出演するようになった。常識あるインテリから、社会性ゼロの変人まで、古舘はどんな人間にも成りきるので、たちまち引っ張りダコになり、2013年には映画とドラマで計17本に出演した。

 その後も現在まで1年に最低でも計5本以上の作品に出演している。それでも見飽きられないのは本当に上手いから。各作品に溶け込んでいるためだ。

そろそろ朝ドラでヒロインの父親役?

 主演ドラマは僅かだが、そのうちの1本は制作会社団体が選ぶATP賞テレビグランプリ・ドラマ部門最優秀賞を受賞した。滝藤賢一(46)とダブル主演した2020年「コタキ兄弟と四苦八苦」(2020年)である。プロのテレビマンが選ぶので、信頼されている賞だ。

 古舘が神経質で融通の利かない兄に扮し、滝藤はおそろしくデタラメで軽薄な弟を演じた。兄弟がレンタルおじさんの仕事を行うことにより、人生の重みを浮き彫りにした。コミカルタッチだったものの、含蓄に富んだ作品だった。古舘の演技は主演でもやっぱりウソがなかった。

「舞いあがれ!」での笠やん役も古舘はリアルを目指している。

「本物の職人に見えるように、『あの人、本物使ってるよね?』と言われるところを目指します」(『NHKドラマガイド「舞いあがれ!」Part1』)

 もう本物に見えている。短い出演を含めると、朝ドラは「瞳」(2008年度前期)、「あまちゃん」(2013年前期)、「ごちそうさん」(2013年度後期)、「ちむどんどん」(2022年前期)に続き5作目。そろそろヒロインの父親候補として名前が挙がっても不思議ではない。

 54歳ながら、海外留学が長かったので、青年団入りからは19年。まだ活躍の場を広げるに違いない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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