歯磨きCMで人気「江原真二郎」、亡き息子の告別式の日も舞台に立った「芸能一家」の肖像【2022年墓碑銘】

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♪白い歯っていいなー、ホワイトアンドホワイト。

 決まり文句を口ずさめるほど、このライオンの歯磨き粉のコマーシャルは知られていた。俳優の江原真二郎さん、女優の中原ひとみさん夫婦が子供たちと一緒に出演。1972年から82年までの長きにわたり続いた。

 その間、小学生だった長男の歩さんは高校生になり、開始当時3歳で乳歯もまだ生えそろっていなかった長女の里織さんは中学生に。

 元芸能レポーターの藤田恵子さんは振り返る。

「芸能人なのに、ごく普通の中流家庭に見えました。演技の白々しさや幸せを強調してくる嫌みがない。ほのぼのと温かい生活臭が伝わってきました。10年以上も飽きられず代表出演作といってもいい。視聴者は子供の姿を見て、ずいぶん大きくなったなあ、と親戚や近所の子供の成長を見守っている気持ちになりました」

 子供は用心していても虫歯になるもの。“歯磨きのコマーシャルに出ているくせに”と小学校でからかわれもした。仕事を引き受けた以上は責任があると、一家は一日何度も念入りに歯を磨いた。仕事に子供を巻き込んでいると気にして、毎年子供たちの意見を聞いたうえで続けてきた。コマーシャルが惜しまれながら終了したのは、長男が“両親と一緒に笑顔を見せるのが恥ずかしい”と言うのを受け入れたためという。

実直さと不良っぽい味

 江原さんは36年、京都生まれ。本名は土家基定。東映京都撮影所に入り、大部屋俳優だった57年に今井正監督の「米」で主役に抜てきされ、農家の次男を好演。

 映画評論家の白井佳夫さんは言う。

「今井監督は庶民の暮らしを通じて人間が生きることの意味を描こうとしました。『米』は戦後まもない時期の農村の実情に迫っている。江原さんには実直さに加えてちょっと不良っぽい味も溶け込んでいて、リアルな人間像を表現できた」

「米」で江原さんの妹役を務めた中原さんと、同じく今井監督の「純愛物語」(57年)でも共演。不良少年と戦災孤児の間柄でお互い恋心を抱くが、彼女は原爆の後遺症に斃(たお)れる。同作はベルリン国際映画祭で監督賞にあたる銀熊賞を受賞。

「今井監督は同じ人を何度も主役級には使わないのですが、江原さんと中原さんの持ち味を認め、その後もよく起用した」(白井さん)

 同い年のふたりは、60年に結婚。1男1女を授かる。映画、テレビの双方で重宝され、歯磨き粉のコマーシャルで時の人となった。

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