古谷一行さんと時代劇 演じたキャラクターはどれも「もっさりとしたダメ男に見えるが、実は…」

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俳優座でバンド活動も

 ユニークだったのは、原作・柴田錬三郎の「びんぼう同心御用帳」(1998年・テレビ朝日)。

 町奉行所の同心・大和川喜八郎(古谷)は、独り者なのに家で9人の孤児を養うお人よし。超貧乏生活だが、子供たち(子役のひとりは錦戸亮)は毎日、「一つ、うそをつくまじ」などと決まりを暗唱し、年長の者が年少を助け、こつこつ仕事までして、健気に暮らす。時に見張りや伝言リレーまでして捕物を手伝う「江戸の少年探偵団」なのだ。子供たちをニコニコと見守る喜八郎は、外見からはわからないが、殺しやかどわかしなど難事件を解決する実力派。時代劇史上、もっとも貧乏なヒーローとも言われた役を、とても楽しげに演じる姿が印象に残る。

 晩年には、かなりのくせ者おやじを演じている。

「剣客商売」シリーズ(2012年~・フジ)で古谷は、道場を息子に譲り、年の離れた女房・おはる(貫地谷しほり)と隠宅で悠々自適の暮らしをしながら事件に向き合う剣の達人・秋山小兵衛(北大路欣也)の友人の医師・小川宗哲を演じた。ふたりは「おお月だ」と縁側で月見酒としゃれこむ。もっとも、小兵衛は独り身の宗哲がさびしい暮らしをしていると思っていたが、彼にはせっせと手料理を運んでくれる近隣の女性(床嶋佳子)がいるのである。

 また、溝端淳平が主演の「立花登青春手控え」(2016年~・NHK BSプレミアム)では、秋田から出てきた立花登(溝端)が世話になる江戸の町医者で伯父の小牧玄庵を演じた。立派な医者だと思っていたら、玄庵は酒好きで患者も少なく、登は伯父一家の家計を助けるために小伝馬町の牢医となる羽目に。憎めないが困った伯父さんであった。

 どこか飄々としたキャラクターの数々は、金田一耕助のイメージとも重なる。

 映画では原作・筒井康隆、監督・岡本喜八の「ジャズ大名」(1986年・制作=大映、配給=松竹)も忘れられない。幕末、維新の風雲の中で、城が官軍と幕府軍の通り道になってしまった音楽好きの大名が、たまたま流れ着いた黒人たちとジャズ演奏を続けるという奇想天外なストーリー。古谷は若き日の俳優座に所属していた時代、バンドを組んでビートルズから演歌まで歌っていたという。こんな映画を撮れたのも岡本監督だからこそだが、こんな殿様が似合う俳優も他にいなかったなとつくづく思う。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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