「ぞんざいに扱われる役」でこそ輝く仲野太賀 ピンとこない「ジャパニーズスタイル」を見続けてしまう理由とは

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 今年の仲野太賀はすごかった。タイガイヤー。寅年だけに。「初恋の悪魔」(日テレ)と「拾われた男」(NHK BSプレミアム→総合)の熱演が記憶に新しいが、持ち味を存分に生かした適役だった。基本的に、弱いのに強がる、自分を大きく見せたがる、悪い人ではないが、ひと言が余計で癇に障る。なんというか、「邪険に扱われる選手権」があったら間違いなく今の日本で3本の指に入る俳優ではないかと思う。同情や共感をもって味方になってあげたい気もするが、なんかちょっとムカつく、みたいな気持ちにさせる妙味がある。

 そして、今年3本目の主演作が「ジャパニーズスタイル」だ。観客の前で本番を一発撮りするシットコム。役者への負担ハンパねえなと思いつつ、太賀ならば間違いなく面白くなるだろうと期待した。初回を観て、気忙しい割に物足りない感があり、「ああ、これは生で観たら、もっと面白く感じるヤツかも」と思った。カメラも数台あるのだけれど、脳内で欲しい絵と映し出される絵が異なる。舞台の映像は往々にしてそうなってしまうのだが、欲求が微妙にズレたままってのは案外しんどい。ドラマモードと舞台モードで視点が変わるからなぁ……。

 セリフのひとつひとつは咀嚼(そしゃく)すれば面白いはずだが、気忙しさが邪魔をして、咀嚼させてもらえない。もったいないような、でもこの歯がゆさが新しいような、いや、そうでもないような。逆に、突如挿入される映像(闇金と霊媒師と元カノ)にくぎ付けになるも、数十秒で消える。なんなん? あいつ誰なん? と気もそぞろにさせておいて、舞台はドタバタが進行中。んもう! それでも観続ける理由は四つ。その前に、設定を紹介。

 舞台はさびれた温泉旅館。この実家を飛び出し、10年以上帰らなかった息子・哲郎(太賀)が、突然戻ってきたところから始まる。宿の主人である父親が入院し、女将(おかみ)である母(キムラ緑子)は看病のため不在。宿の主夫妻の留守を預かるのは、仲居頭の桃代(演じるのが楽しそうな檀れい)と支配人の影島(2時間ドラママニアの探偵気取りがはまっている要潤)、料理人の浮野(うの)(劇中最もまともな男を演じるKAZMA)。皆、放蕩息子の哲郎を邪険に扱う。

 また、桃代の馬鹿息子・凛吾郎(悲しいくらい上滑りする石崎ひゅーい)や、態度の大きいダンサー・ルーシー(しょっぱい人生が似合う市川実日子)も住みついており、哲郎は自分の実家なのに完全に邪魔者扱い。唯一知っているのは、昔から勤める梅さん(働かない三助というか管理人風情が抜群の柄本明)のみ。風呂と池の管理、お茶出しという水モノ担当だが、哲郎の味方になるほどの力はない。つまり、ぞんざいにあしらわれる太賀が最大の魅力。そして、セリフ。端々に放り込まれた些末な単語が、のちにすべてつながる面白さに驚く回もある。三つめ、ゲストもいい。最後、闇金(松川尚瑠輝(なるき))・霊媒師(宮澤美保)が気になる。元カノ(モトーラ世理奈)は咀嚼できたが、このふたりの行く末を観るまではやめられん。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年12月29日号掲載

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