「黒田サプライズ」はインフレ抑制に有効だが…金融危機の火ダネになりかねない悪影響も

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終わる「イージーマネー」の時代

 世界の投資家にとっても日銀の決定はサプライズだった。主要な中央銀行で唯一金融緩和を続けてきた日銀が事実上の金融緩和を縮小したことで「世界の債券市場のアンカー(金利を低くとどめるいかり)が解除された」との衝撃が走った。

 日本の投資家は低金利が続いた国内ではなく、海外の金融資産に資金を振り向ける動きを長年続けてきたが、「日銀の決定を契機に、日本勢は外国債券を売却し、日本への資金還流を進める可能性がある」との観測が浮上している。

 海外の金融資産に約3兆円規模のジャパン・マネーが投資されており(12月20日付ブルームバーグ)、資金の日本国内への回帰が進めば、世界の債券市場は大打撃を受ける。

 世界の債券市場の今年のパフォーマンスは戦後最悪になることが見込まれている。

 史上初の世界同時金融引き締め局面に入り、低金利で資金調達が可能だった環境は過去のものとなり、いわゆる「イージーマネー」の時代が幕を閉じつつある。

 高インフレという環境下で世界の投資家たちは動揺し、債券市場の根幹を成す国債の信用にまで疑義を持ち始めている。米バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチが月末に公表した調査によれば、今年の世界の国債市場からの資金流出額は73年ぶりの大きさになるという。

 絶不調の世界の債券市場をこれまで下支えしてきたのはジャパン・マネーだったと言っても過言ではない。だが、この構図が崩れてしまえば、回復軌道に乗り始めた世界の債券市場は再びスランプに陥ってしまうとの不安が頭をよぎる。

 今回の日銀の決定が新たな金融危機の火種にならないことを祈るばかりだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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