「餃子の王将」社長射殺事件 その筋の世界で語られていたこと

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「証拠が弱い」の声

 バイクが見つかったのは射殺現場から約1〜2キロ離れた場所だった。さらに翌15年ごろには、事件現場付近に落ちていたタバコの吸い殻に特定危険指定暴力団・工藤會系組員のDNAが付着していたことも判明した。

 京都府警は当初、「それだけでは逮捕できない」と判断した。ところが、事件からおよそ9年が過ぎた2022年10月28日、工藤會系組幹部の田中幸雄容疑者が殺人と銃刀法違反の容疑で京都府警に逮捕された。

 京都府警は会見で、タバコの吸い殻や小型バイクに付着していたDNA、バイクから検出された硝煙反応、現場の下見に使われた軽乗用車を入手したのが田中容疑者の知人だったといった事実が逮捕の決め手になったと発表した。

 だが、一度は逮捕を見送った事実は大きい。「この程度の証拠では、公判維持どころか起訴も難しいのでは?」と疑問視する識者も少なくない。

 発表された証拠だけでは、射殺現場に田中容疑者がいたことは証明できたとしても、実際に拳銃を撃ったことにはならないからだ。

 少なくとも現時点で、田中容疑者が実行犯たる“ヒットマン”だったと断言するのは極めて難しい。犯行に複数の協力者が存在することは、それこそ証拠から導き出される。田中容疑者が、そうした協力者の1人に過ぎないという可能性は存在するのだ。

司法取引説

 その一方で、「取調べや事情聴取を受けた事件協力者や関係人の中に、警察の司法取引に応じて、田中容疑者が実行犯だと証言した者がいるのではないか」と推測する関係者もいる。

 例えば、拳銃を入手した共犯者が「田中容疑者に頼まれて『餃子の王将』の社長を撃つために拳銃を手配しました」とか、射殺現場からの逃走を手伝った協力者が「私が田中容疑者を逃がしました」と証言したという場合だ。

 2018年、日産の社長だったカルロス・ゴーン被告が逮捕された時、当時の日産の幹部たちは、軒並み司法協力に応じた。ゴーン被告が不利となる証言を行うことで、自分たちは逮捕から逃れたのだ。

 深読みが過ぎるかもしれないが、工藤會の総裁である野村悟被告の公判対策として、田中容疑者が逮捕されたと見る向きもある。

 2021年8月、福岡地裁は野村被告に死刑判決を下した。裁判では市民を狙った4つの事件について審理が行われたが、最後まで野村被告による具体的な殺害指示は明らかにならなかった。

 地裁は「推認」を積み重ねて極刑としたが、野村被告側は猛反発した。裁判は高裁、最高裁と続く可能性が高い。

 高裁の審理で、野村被告に対する決定的に不利な証言を田中容疑者にさせるため、射殺事件で逮捕して司法取引を行った──という“解説”も語られている。

 王将の事件に話を戻せば、「田中容疑者は確かにヒットマンだ」という証言が複数あれば、裁判で強力な証拠として採用されるのは間違いないだろう。

 最後に、志半ばで悔しくも凶弾に倒れた大東隆行前社長のご冥福をお祈りする。

註:「餃子の王将」社長射殺事件、“黒幕”と疑われた人物の独白 「京都府警が“犯人はあんたしかおらん”と迫ってきた」(デイリー新潮・11月1日)

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。2020年に『山口組対山口組』(太田出版)を、22年に『M資金 欲望の地下資産』を上梓。

デイリー新潮編集部

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