電力の2割を超えた再生可能エネルギー 課題は太陽光が引き起こす停電リスク

国際 中国

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 経済産業省は11月22日、昨年度の発電電力量の構成比(速報値)を発表した。

 発電電力量全体は前年に比べ3.2%増加し、二酸化炭素排出量も1.2%増加した。

 火力発電の比率は前年比3.5ポイント減の72.9%だった。内訳は天然ガスが34.4%、石炭が31.0%、石油が7.4%だ。

 原子力発電の比率は前年比3ポイント増の6.9%だった。

 注目すべきは再生可能エネルギー(再エネ)の比率が前年に比べて0.5ポイント増加し、初めて2割を上回ったことだ(20.3%)。内訳は太陽光が前年比0.4%増の8.3%、水力は前年から微減の7.5%、風力は前年と同じく0.9%だ。

 増加傾向にあるものの、日本の再エネの電源構成比率は海外と比べて低いと言わざるを得ない。欧州(2020年時点)ではドイツが43.6%、英国が43.1%だ。アジアでは中国が27.7%、温暖化対策で意見が分かれる米国でさえ19.7%だ。

 今年10月に開催された第27回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP27)の合意文書には「2030年までに再エネ投資は年間4兆ドルが必要」と明記された。ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機を受け、「国産エネルギー」である再エネはエネルギー安全保障の観点からも重要性が高まっている。

 政府は2021年に策定したエネルギー基本計画で「2030年度の電源構成のうち再エネの比率を36~38%にする」ことを決定したが、正直言って高いハードルだ。

 目標達成の鍵を握るのは過去10年に急成長した太陽光だ。発電量の増加ペースを現行のまま維持する必要があるが、「踊り場」に差しかかっているのが実情だ。

独仏に比べ8割高い、日本の太陽光コスト

 日照条件の悪さなどが災いして、日本の太陽光発電のコストは依然として割高だ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、日本の太陽光の発電のコストは1キロワット時13.5円(1ドル=114円で換算)。5円の中国や6.5円の米国の2倍超、独仏に比べても8割高いという。

 今後発電量を大幅に増加させるためには新たな土地の確保が不可欠だが、乱開発の問題などがさかんに批判されるようになっており、太陽光発電施設の新規着工に対する規制を強化する自治体が増加しているのも悩みの種だ。

 2012年に100万kWに過ぎなかった太陽光発電の設備容量は政府の強力な支援策に後押しされて50倍以上に急拡大した(2022年3月時点で5200万kW)が、このことがさらなる問題を生み出している。

 発電設備が増加すれば、電力供給が安定化するのが通常だが、天候に大きく左右される太陽光は電力供給を不安定化させてしまう欠点を抱えている。

 小規模であれば看過できたが、今や設備容量が石炭火力と同規模になった太陽光が不調な時に想定外の電力需要が発生すると停電が起きてしまいかねない。

 米国カリフォルニア州では既に太陽光が原因の停電が発生している。

 温暖化対策に熱心なカリフォルニア州は発電量の4割を太陽光、水力、風力などの再エネで賄っていたが、2020年8月、猛烈な熱波に見舞われ、冷房需要が急増し、同州の一部地域で停電が発生してしまった。日没後に太陽光の発電量がほぼゼロになってしまったが、その落ち込みをカバーする発電設備が不足していたからだ。

日本でも危機的状況が…

 日本でも冬場に停電寸前の事案が発生している。

 2022年3月22日、降雪のせいで東京の暖房需要が大幅に増加したが、その直前に福島県で発生した地震の影響で大規模火力発電所が停止しており、量販店の照明などの節電が実施されていなければ、停電が発生してもおかしくない状態だった。

 夏季は電力需要のピークが来る午後2~3時に太陽光の発電量がピークとなることが多いのに対し、冬季の電力需要のピークを迎える夕方は太陽光の発電量が減少していることが関係している。太陽光の大規模導入により特に冬場に電力のミスマッチが生じ、停電が発生しやすくなっていると言っても過言ではない。

 この問題に対処するため、ピーク時に発生した太陽光の電気を電池に蓄え、その他の時間帯に利用することが検討されているが、長年の開発努力にもかかわらず、蓄電池の効率は思うように上がらず、コスト削減の道筋が見えない。

 政府も地域間の電力の需給ギャップ緩和に資するための送電網の整備などに乗り出しているが、前途遼遠の感は否めない。

 暗中模索が続いている中、筆者が注目しているのはベンチャー企業の取り組みだ。

 MCC QUANTA(株) (葛谷敏治社長、本社は愛知県一宮市)は、既に設置されたパネルにインストールするだけで太陽光の発電効率が2倍になるデバイスを開発した。量子物理学の原理を応用することでパネル内に発生した電子をより多く外部に取り出すことが可能となり、太陽光の発電可能な時間を従来の2倍にできるという「優れもの」だ。

 このデバイスを日本中のパネルに取り付ければ、太陽光が引き起こす停電リスクを減らすことができるばかりか、「新たに土地を確保しなくても太陽光の発電量は2倍となり、結果的にコストは2分の1になる」という夢のような効果も期待できる。

 このデバイスが市場に投入されるのは来年後半だ。一刻も早く全国の太陽光パネル(累計2億枚超)に設置されることが望まれる。

 太陽光を巡る環境は必ずしも良好ではないが、オール・ジャパンで諸課題に取り組めば、再エネの導入目標はクリアできるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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