「特殊詐欺」最新事情 高度な分業化、高速道路を走行中にサギ電話、現役警官も加担で再び増加

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“高速道路”を走りながら詐欺電話

 過去には、中国に拠点を設けたり、あるいは国内のラブホテルやマンスリーマンションなどに「かけ子」を集めて電話をかけさせていたそうだが、

「警察が拠点に踏み込むと全員が逮捕されてしまうので、最近はそうした摘発事例を聞かなくなりました。ただ、かけ子を一人ひとり別々の場所で仕事させると、監視の目が行き届かず“飛び”のリスクが生じ、名簿や詐欺のノウハウを持ち逃げされかねない。そのため詐欺グループは、集団の摘発を免れつつ、個人の“飛び”を防ぐ方法を常に考えています。最近では3~4人のかけ子をミニバンに乗せて、“高速道路”を延々と走りながら電話をかけるケースもあります。捜査の手から逃れるために拠点を転々とさせるのではなく、その拠点自体が移動し続けるわけです」

 犯罪グループが見ず知らずの若者を集め、会社組織も驚くほどの細かい分業体制を敷いていることにも理由がある。ひとつは、たとえ一部のメンバーが逮捕されても、上層部に辿り着けないようにするため。さらに田崎氏は、「役割を細かく分担することで、意図的に“罪悪感”を希薄にさせている面もある」と指摘する。

「つまり、かけ子は“俺は電話しただけで、金を取ってないですよ”、受け子は“金を運んだのは事実ですけど、騙してません”と言い訳ができるんです。受け子やかけ子として集められるのは素人同然の若者たちなので、高齢者を騙すことに罪悪感を覚えることもある。しかし、役割ごとに分断すると、犯罪に対する心理的なハードルが下がる。実際、特殊詐欺に関わった若者たちは犯罪行為に加担したという意識が非常に低いんです」

「お前の写真をネット上に晒すぞ」

 こうして特殊詐欺の歯車となった彼らが、なかなか組織から抜け出せないのは、身分証明書など個人情報を伝えてしまっていることも一因だ。

「初めて組織の仕事をする若者に対して、指示役は、免許証の横に顔を近づけた自撮り写真を送らせます。身分証の提示を求めるのは、“仕事”で得た金を持ち逃げされないようにするため。つまり“飛び”の防止です。とはいえ、もちろん指示役はそんな説明はしません。“初めてのお仕事ですし、履歴書も頂くわけにもいかないので、身分証の写真だけお願いします”などと優しい調子で話しかけてくる」

 一般的な感覚からすれば、犯罪グループに個人情報を伝えることなど危険極まりない。しかし、詐欺グループの上層部は手練手管を使い、アルバイトや就職の面接の際に提出する履歴書と同じ感覚で個人情報を提供させる。無論、金に窮した若者たちに断ることなどできない。これが後々まで重い“足かせ”となるのだ。

「何度か犯行に加担させた若者が弱気になると、指示役は一転して脅しに入ります。“お前の写真をネット上に晒すぞ”と。本人はびっくりするけれど、犯罪に加わった認識はあるので、“バレたらやばい”と追い詰められていく。その結果、犯罪行為をエスカレートさせていくわけです」

 個人情報は、指示を断った者や足抜けしたい者、あるいは、飛んだ者に対する脅しに使われる。指示役は、個人情報をチラつかせながら「家族を殺す」と執拗に詰めてくる。それでも指示に従わない者には、「わかった、これで最後だから」と言い、見ず知らずの“仲間”と共に、高齢者の家に押し入るよう指示することも。詐欺の片棒を担ぐだけでなく、強盗に手を染めたとなれば、その先に待っているのは、言うまでもなく逮捕・懲役という末路だ。軽い気持ちで手っ取り早く金を稼ぐつもりが、全てを失うことになる。

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