日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】

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 国家の安全保障を左右する戦略物資としてますます重みを増す半導体。このサプライチェーンをめぐって各国で激しい駆け引きが行われている。かつて日本は半導体大国だった。それがなぜこうまで凋落してしまったのか。そして今後、復活の可能性はあるのか。半導体産業を知悉するジャーナリストの提言。

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佐藤 ここ数年、半導体は常に経済ニュースの主役です。コロナや米中デカップリング(分離)でサプライチェーンが分断され、深刻な半導体不足が生じて家電製品や自動車の生産ラインが止まりました。ただ、この物資の実態は極めてわかりにくい。その全体像を理解するのに、太田さんの『2030半導体の地政学』は格好のテキストでした。

太田 ありがとうございます。おっしゃる通りで、半導体はあらゆる電気製品に組み込まれており、サプライチェーンはグローバルに広がって複雑です。その上、いまや国家の安全保障を左右する戦略物資となり、半導体を制する者が世界を制すという状況になっています。

佐藤 まずはこの半導体がどこでどう作られているのか、そこからお話しいただきたいと思います。

太田 半導体チップが製品として世に送り出されるまでには、千近くの工程があります。大雑把にまとめると、半導体にどのように仕事をさせるかを考える人、設計する人、実際に作る人がいます。それらが別々の地域、会社で行われています。

佐藤 国を跨いでもいる。

太田 はい。最上流にいるのが、電子回路の基本パターンやデジタル信号を処理する仕様を考え、ライセンスの形で供与する会社です。「IPベンダー」とも呼ばれますが、一番有名なのはイギリスのアームです。

佐藤 2016年に孫正義さんのソフトバンクが買収した会社ですね。

太田 そうです。次に基本設計を買って組み合わせて自社のチップの図面を描く人たちがいます。アメリカならクアルコム、エヌビディアなどの会社で、中国ならファーウェイ傘下のハイシリコンがそうです。またアメリカのインテルやAMDのようにアームとは異なる自前の仕様を採っている会社もあります。

佐藤 はっきり分けられない会社もある。

太田 ただ、これらの企業の多くはファブ(工場)を持たず、「ファブレス」と呼ばれています。

佐藤 つまり頭脳ですね。工場ではなく、オフィスで仕事をしている。

太田 製造を請け負うのは、「ファウンドリー」と呼ばれる企業です。アメリカのグローバルファウンドリーズや韓国のサムスン電子などがありますが、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の一人勝ち状態です。技術力も規模も圧倒的で、世界の60%近いシェアを占めています。

佐藤 世界中でTSMCの工場を誘致していますね。アメリカではアリゾナ州に工場を造ることになりましたが、日本も国を挙げて誘致し、熊本に造ることが決まりました。

太田 製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです。

佐藤 回路にはナノ(10億分の1)単位で描線が引かれるといいますね。

太田 5ナノ~3ナノで量産できるのはTSMCとサムスン電子の2社で、2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけです。

佐藤 このTSMCはいつできた会社なのですか。

太田 1987年です。そもそも設計と製造を分離させたファウンドリーは、TSMCの創業者・張忠謀が発展させてきたビジネスモデルです。アメリカ企業にしてみれば、工場を建てて設備投資すれば1兆円単位でカネがかかりますから、自分で持ちたくはない。安く作ってくれるところがあれば、任せたいわけです。

佐藤 両者の思惑が一致した。

太田 自由貿易と市場原理の一つの均衡点として生まれたモデルといえます。これらを地域で見ていくと、IPベンダーはイギリス、ファブレスはアメリカのシリコンバレー、そしてファウンドリーは台湾、韓国の東アジアと、大西洋も太平洋も跨ぐ形で、広大で複雑なサプライチェーンが広がっています。

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