あわや「セルフ戦力外」危機も…FA行使を巡る驚くべき“3つの珍事件”

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“FAに振り回された男”

 FA宣言したのに、どの球団からも声がかからず、あわや“セルフ戦力外”になるところだったのが、日本ハム時代の藤井秀悟である。

 09年、7勝5敗、防御率3.53の成績を残し、巨人との日本シリーズ第5戦でも7回無失点と好投した藤井はシーズン後の11月9日、「新しい場所で頑張ることができたらな、と思う。向上心を持って成長したい」と他球団への移籍を前提にFA権の行使を表明した。

 だが、藤井のFA宣言は表向きの“パフォーマンス”で、実は、日本シリーズ第5戦登板の3日後(11月8日)に球団から戦力外通告を受けていた。

 7勝していても、移籍1年目の前年は3勝8敗に終わり、2年連続規定投球回数に満たない投手が年俸7000万円を貰っているのは、コストに見合わないという判断からだったようだ。自由契約になると、移籍先で年俸が大幅にダウンすることから、球団側は「FAのほうが年俸は下がらない」とアドバイスしたと伝わる。

 そんな“裏事情”が知れてしまったのか、当初は藤井獲得に動く球団がなく、現役続行の危機に直面したが、12月3日、ようやく巨人が名乗りを挙げた。

 ただし、巨人も積極的に動いたのではではなく、「一時はFAの獲得を見送ろうと思った。きっかけは先週末、知人から私に電話があり、藤井選手が獲得球団がなくて、悔し涙を流していると聞いた。それならば、会ってみようと思った」(清武英利球団代表)という人情めいた理由からだった。

 こうした事情もあって、FA移籍では異例の1000万円ダウンの年俸6000万円(プラス出来高)という条件で12月8日に契約となった。

 移籍1年目に7勝を挙げ、獲得してくれた恩に報いた藤井だったが、翌11年は0勝に終わると、今度はFA移籍・村田修一の人的補償でDeNAに放出と、“FAに振り回された男”のイメージも強い。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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