世界はインフレなのに…中国でデフレリスクが台頭しているのはなぜ

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資金の流れに変調

 高騰が続く中国の不動産市場については過去何度も「バブル崩壊の懸念」が警告されてきた。にもかかわらず、最近まで活況が続いていたのは「合理的バブル」のおかげだ。

 最近の経済学の知見は、実質経済成長率(成長率)が平均貸出金利(貸出金利)を上回る状態が続いている限り、資産バブルが持続することを明らかにしている。合理的バブルはこのような状況で発生しているバブルにほかならない。

 21世紀に入り、中国の成長率は常に貸出金利を上回っていたが、昨年から成長率が貸出金利を下回るようになった。今年上半期の成長率も貸出金利を下回っていることが確実であり、中国で続いてきた合理的バブルの条件が消滅しつつある。

 不動産バブル崩壊の影響で日本は1996年にデフレに陥り、翌97年に金融危機が発生した経緯がある。中国でも資金の流れに変調が起きているのが気がかりだ。

 中国人民銀行が11月10日に発表した10月の人民元建て新規銀行融資は6152億元となり、前月(2兆4700億元)から急減した。人民銀行が融資促進を働きかけたのにもかかわらず、新規融資は4年10ヶ月ぶりの低水準に落ち込んでしまった。

 国際金融協会は11月9日「外国人投資家は10月、中国の金融市場から88億ドルの資金を引き揚げた」との推計を示した。「中国外し」の動きが見せる新興国ファンドが現れるなど「チャイナ・パッシング」の動きが顕在化している。

 中国の銀行の株価も急落している。中国工商銀行など4大国有銀行の香港上場株の株価純資産倍率(PER)は0.4にまで落ち込んでいる。この水準は2008年の金融危機時のJPモルガン・チェースなど米国の大手銀行とほぼ一致しており、市場は中国での金融危機発生を既に織り込み始めているようだ。

 不動産バブル崩壊が金融危機へとつながる懸念が生じる状況下、10月に開催された5年に1度の中国共産党大会は極めて重要な意味を持っていたのだが、成果はまったく期待外れだった。不動産市場を浮揚させる手がかりがほとんど提供されなかったし、新しい成長の原動力が示されることもなかった。

思い出す清王朝の失敗

 それ以上に落胆したのは新指導部の人事だ。

 中国経済の舵取りを担う首相候補に李強氏が選出されたのだが、李氏は中央政府の勤務経験がなく、マクロ経済運営の手腕は未知数だ。首相候補になったのは、李氏が習近平国家主席の最側近だからだとされている。歴代首相は高い指導力を武器に難局を乗り切ってきたが、李氏が危機に直面しつつある中国経済を救えるとは思えない。

 異例の3期目入りする習近平総書記は党大会の閉幕式で「経済発展が引き続き党の最重要課題だ」と述べたが、市場関係者は「中国政府は経済発展や改革開放の優先度を引き下げるのではないか」との懸念を強めている(11月8日付ブルームバーグ)。

 中国の歴史を遡ること150年、1860年代から1890年代にかけて、当時の清王朝は国力増強を目指すために西洋文明の科学技術を積極的に導入しようとした。いわゆる「洋務運動」だが、最終的には清王朝の時代遅れの政治体制が災いして失敗に終わった。

「歴史は繰り返す」

 洋務運動と同様、1980年代から改革開放政策によって国力を飛躍的に増強させてきた中国だが、ますます硬直化する政治体制が仇となって、清王朝と同じ末路を辿ることになるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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