なぜ女流棋士は男性に勝てない? 里見香奈女流五冠の敗戦…林葉直子が改善点を指摘

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 里見香奈女流五冠(30)は女流棋士史上最強との呼び声が高い。その彼女をしてなお「棋士編入試験」の壁は高かった。女性初のプロ棋士誕生を阻んだものは、いったい何なのか。

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 里見は終盤の切れ味の鋭さから“出雲のイナズマ”の異名を持つ。その彼女が今年5月下旬にプロへの編入試験を受ける条件を満たし、8月から男性棋士相手に五番勝負を挑んできた。

 しかし、第1局、第2局と連敗。さる10月13日、大阪市で行われた第3局でも狩山幹生四段(20)に敗北を喫し、ついに不合格となったのはご承知の通りだ。

 里見は2019年に史上初となる女流六冠を達成するなど、その功績は華々しい。そんな彼女をしてもプロ棋士の世界は遠かった。将棋ライターの松本博文氏は敗因について以下のように分析する。

「里見さんの今年度の公式戦は、編入試験第3局が終わった時点で女流や男性棋士たちを相手に48局。一方、一番対局数が多い男性の棋士でも39局です。つまり、相当ハードなスケジュールの中で、編入試験を戦ってきた。制度上は無理ですが、彼女が編入試験一本に絞れる環境だったら、もっとよい対局内容になっていたかもしれません」

 過去に編入試験に合格した棋士は全員男性だが、3名とも編入試験一本に絞り、勝負を挑めた。しかし、里見は違う。女流棋戦を戦いながら試験に臨まなくてはならなかったのだ。

「私なら不意をつきます」

 里見本人は記者会見で、

「対局は確かに多いが、どういう状況でも変わらず、普段の力を発揮できないと本当の強さではない」

 殊勝にもそう語っているが、対局数の多さは不合格と無縁とはいえまい。

 一方で、元祖天才女流棋士というべき林葉直子(54)はこう語る。

「里見さんの性格は真っ直ぐなのだろうな、と思います。彼女はもともと(飛車を中央に振る)中飛車が得意な戦法なんですが、今回、編入試験の3局ともその戦法を採った。そのため、相手に対策を練られてしまったのです」

 ご自身ならどう指したか。

「私なら不意を突きます。1局目で得意な中飛車を使わなければ、2局目、3局目の相手も疑心暗鬼になり対策を講じにくくなるはず。それこそ私が現役の時は(定跡の)角筋を空ける“7六歩”ではなく“3六歩”、つまり飛車の斜め上の歩を初手に指したりした。相手を惑わすためにね」

 ただ先の松本氏は里見の正攻法をかように評価する。

「相手を惑わす手は格下が格上にやること。里見さんは女流五冠。だからこそ、自分の得意な戦法で堂々と戦った。実に清々しいじゃないですか」

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