ドラフトで何が起きた? 上位候補選手が“指名漏れ”や“下位指名”となった裏事情

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「実力」以外の面にも理由が…

 確かに、慶応大・萩尾匡也(巨人2位)や中京大・沢井廉(ヤクルト3位)、東北福祉大・甲斐生海(ソフトバンク3位)といった大学生野手は、実績では山田に及ばないものの、振りの強さが目立つ選手だ。高校生だけはなく、大学生も“完成度”より“スケール”を求められている時代になりつつあると言えそうだ。

 さらに、実力以外の面にも“指名漏れ”の理由があったのではないかと、前出のスカウトは指摘する。

「ドラフトでは『何位以下の指名ではプロには行きません』という、いわゆる“順位縛り”があります。それ以外にも、あらゆるしがらみがあるのが、ドラフトの指名です。山田の場合、甲子園と東京六大学のスター選手で、実績で見れば世代トップです。そんな選手を、下位では指名しづらいという慣習のようなものは確かに存在しています。過去には、山田よりも大学時代の実績に劣る佐野恵太(明治大→DeNA)がドラフト9位で指名されていますが、その時はかなり勇気がいったと聞きました。最終的には、DeNAに明治OBの高田繁GM(当時)が在籍していたため、入団に漕ぎつけましたが、こうした繋がりがなければ、佐野を9位で指名できなかったと思いますね」

 伝統のある東京六大学のチームは、プロの球団にOBが多い。そういった繋がりがプラスに働くこともあれば、しがらみによって低く評価しづらいという事情があることは確かだろう。

亜細亜大・田中も予想外の低順位

 一方、山田のように“指名漏れ”ではなかったが、予想以上に低い順位だった選手が、亜細亜大のショート、田中幹也(中日6位)である。

 身長166cmと小柄ながら、抜群のスピードと守備力に定評があり、今年の全日本大学野球選手権では、チームを優勝に導きMVPを受賞している。補強ポイントがショートだった球団が多かったにもかかわらず、田中は低い順位で中日に指名された。

「田中は、難病『潰瘍性大腸炎』でしばらくプレーできない時期があったので、(プロ選手として耐えられるどうか)体調面を気にしていた球団は多いと思います。今は完治しているとのことですが、プロの長いシーズンをフルに戦うには、やはり不安が残りますね。田中は社会人チームの内定をもらっていたようで、指名漏れの山田と同様に高い順位でなければ、指名しづらい状況もあったようです。それでも、中日は、最終的に大丈夫と判断して指名したようですが、社会人チーム側とのやりとりなど、事前にいろいろと働きかけをしたり、これから交渉する部分はあるのかもしれません」(パ・リーグ球団の編成担当)

 かつて、桑田真澄(元巨人)や城島健司(元ダイエーなど)のように、大学進学を希望していながら強行指名し、“密約説”が流れたこともあった。だが、今はプロ志望届の提出が義務付けられたことで、そういった事例が起こることはない。

 ただし、それでも水面下ではプロ側と選手側、さらには選手の内定先企業などの間に様々な“やりとり”は発生している。今回の山田の指名漏れ、田中の6位指名にも、そういった表にはなかなか出てこない“事情”があったことは間違いないだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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