令和初の三冠王「村上宗隆」対策には「命懸けの配球」がカギ 「平成の三冠王」を封じた西武黄金期の正捕手・伊東勤氏が明かす攻略法

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 プロ野球ヤクルトはセ・リーグを2連覇し、2年連続日本一へ戦いの場をポストシーズンに移す。143試合のレギュラーシーズンに対し、最大でも日本シリーズの7試合しかない。西武黄金時代の正捕手として短期決戦を熟知する伊東勤氏(60)は「打倒ヤクルト」に、日本人最多記録の56本塁打を放ち、令和初の三冠王に輝いた村上宗隆内野手(22)の攻略は「避けて通れない」と断言する。昨季までの3年間、中日のヘッドコーチとして村上対策に携わった経験も踏まえ、内角を巡る攻防を「村上封じ」のカギに挙げた。伊東氏の語った攻略法とは――。

「村上の体を動かせ」

 私がヘッドコーチを務めた昨季、中日投手陣は「対村上」で打率2割7分5厘と、よく抑えていたと思う。むしろ山田哲人ら他の打者にやられている印象が強い。だからミーティングで村上だけを念入りに対策するということはなかった。

 ただ、インコース攻めはヤクルトの他の打者以上に徹底した。中日の投手陣は左打席に立つ村上に対し、バッターボックスの縦のラインを目安に投げることを意識していた。「村上の体を動かせ」という指示だった。

 3連戦なら早い打席、早いカウントでこれを実行した。インサイドへの意識付けが終われば、アウトコースの球で空振りさせたり、打ち取ったりすることが可能になった。内角の速球を見せ球に外角の変化球で仕留めるのは最もオーソドックスではあるが、昨季までの村上なら最も効果的な配球だった。

 右投手の場合、左打者への内角球はプレートからホームベースの対角線上に投げればいいため、比較的コントロールしやすい。問題は左投手だ。制球を少しでも誤ると、死球の危険性がある。当ててはいけないと脳裏をよぎると、真ん中の打ちごろの失投なってしまうものだ。

「職業野球の不文律」を破れ

 打者にとって死球は、頭部なら選手生命どころか生命にも関わる。投手の場合も、阪神の藤浪晋太郎投手が象徴的だが、打者に当てると罪の意識などからコントロールが定まらなくなることがある。メンタルにダメージを受け、最悪「イップス」となり、投手生命さえ絶たれかねない。

 同じ相手との対戦を繰り返すプロ野球では、真剣勝負とはいえ、皆、職業としているわけで、互いが傷つかないよう「不文律」が存在する。しかも、今は日本代表チームが存在することで、自主トレなどで他球団の選手との交流が進んでいる。他球団の選手と口をきくのもはばかられた我々の現役時代のように「報復死球からの乱闘」は滅多に見なくなった。

 しかし、村上のような球界を代表するスラッガーを抑え込むためには内角攻めは必須だ。内角への恐怖心を植え付けておけば、真ん中の球でも簡単に踏み込ませずに凡打にできる可能性が高まる。外角のボール球に手を出させることもできる。たとえコントロールしづらい左投手や、選手仲が良くなった時代であっても、バッテリーはある意味「命懸けの配球」で内角を攻めないといけない。

 必要であれば不文律さえ破る。職業野球とは「やるか、やられるか」の世界なのだ。

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