MLBを困惑させるほど活躍する大谷翔平のすごさ 米解説者は「ジャッジの方がすごい!」と力説(中川淳一郎)

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 MLB・エンゼルスの大谷翔平、痛快ですね。何しろ、アメリカの名だたる野球解説者が必死になって「大谷よりもヤンキースのアーロン・ジャッジの方がすごいもん!」と口を尖らせて力説しているから。

 本稿校了時点で大谷は規定投球回(162)達成間近で、規定打席はクリアしています。それでいて打率.271、34本塁打でアメリカンリーグ4位、90打点、11盗塁。投手としては14勝8敗、防御率2.47でリーグ5位。奪三振数は203で奪三振率(1試合あたりの三振数)は11.94と全米一。打者としては中軸打者にふさわしい数字で、投手としては完全にエース。

 ジャッジの成績は.315、60本塁打、128打点で今のところ三冠王ですが、まぁ、一流選手2人分の活躍をしている大谷の方が上でしょう。

 ジャッジびいきの解説者はジャッジがWAR(投打合わせ、勝利に貢献した活躍を数値化したもの)において1位がジャッジ(10.3)で大谷は2位(8.8)であることを根拠の一つにしています。そして、ヤンキースは優勝争いをするほど強いが、エンゼルスは弱い。よってジャッジの方が価値あるもん!と言いますが、以下の疑問にはどのように答えるか。

(1)強いチームでWARが高いジャッジはすごいが、弱いチームで勝利に貢献する大谷もすごい。

(2)大谷は打線の援護がない弱小チームで投手として勝ち頭。

(3)弱小チームで相手が大谷を徹底的に警戒する中、挙げた数字は価値がある。

 とはいっても、アンチ大谷派の言い分も理解できます。「優勝争いに絡まないチームだからのびのびと自分のことだけ考えてプレーができる」が一つ。あとは、「このままだと毎年大谷がMVPを取ってしまうではないか」ということですね。打者として.250、12本塁打、45打点、投手として17勝10敗、防御率3.35とかだったらMVPは無理でしょう。しかし、強豪チームに移籍し24勝5敗、1.79等の圧倒的な投球でサイ・ヤング賞を取って、このような打撃成績をあげたらどうなるか?

 これまた再び論争が発生するわけで、一人の日本人がMLBを困惑させている様が痛快なのです。しかし、アメリカのすごいところは、大谷のような例外的な選手が出た場合に柔軟にルールを変更することです。投手として出場し、降板しても打者として試合に残れるルールは通称「大谷ルール」と呼ばれています。この変化を恐れぬ姿勢は見習うべきです。

 ならば解決策はどうするか? 投手最高の賞に「サイ・ヤング賞」があるのですから、打者最高の賞として「タイ・カッブ賞」などを作り、MVPはあくまでも総合力で判断する。

 ちなみに大谷が匿名掲示板「5ちゃんねる」に登場する時は「直江」という言葉が書き込まれるのが定番となりました。日本のメディアのMLB報道は基本的には、日本人選手の打順・守備位置を述べ、打撃/投手成績と続け、通算成績を紹介。そして最後に「なおエンゼルスは3対8で敗北」と締め、チームの勝敗は二の次。この妙な報道の仕方が「なおエ」と呼ばれるようになり、漢字の「直江」になったのです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2022年10月6日号掲載

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